職人とは何か?|ハイテクな時代で職人の進むべき道を考えてみた

 

こんにちは!畳職人の樋口です。

 

今回は職人とは何か?職人のこれからについて書いたエッセイの記事になります。

 

今、職人の世界は大きく変わろうとしています。

 

どうなっていくのか誰もわからない。行き先不明&天候不明の大海を渡っているようなものです。過渡期を迎えた職人の世界で私たちに出来ることは何だろう・・・と考えた内容になります。

歴史の転換点

 

 

18世紀頃にイングランドの地で始まった世界を変える出来事「産業革命」。これは機械が人間に代って物を生産するという19世紀頃までの一連のプロセスです。当時の学者は人間の仕事が無くなると言っていましたが、今を見ればわかる通り産業は爆発的に増えて、人間の労働力が今まで以上に必要になりました。そして、次から次へとイノベーションを起こし新しい商品が生まれ世界は大きく変わっていきました。

 

とはいえ、あの頃の学者の言うことは全て間違いだったのでしょうか。

 

ドイツ人経済ジャーナリストであるウルリケ・ヘルマン氏は「職人の経験値的知識が失われることに繋がった」とおっしゃっています。では今の日本の職人は経験値的知識を失ってしまったのでしょうか。もしくは、これから先の第4次産業革命により失っていくのでしょうか。

 

これは産業革命以降の日本の職人がどう変わっていくのか、これから先の職人とは何かについて考えてみます。

職人とは何か?

 

まず、最初に職人とはどういった人達なのかについて知らなければなりません。

 

ウェキペディアでは「職人とは、自ら身につけた熟練した技術によって、手作業で物を作り出すことを職業とする人のことである」このように定義しています。

 

その定義に当てはまるのは多種にわたる業種があり建築系から伝統工芸品、飲食系(寿司)など数多くあります。

 

▼関連記事:職人って呼ばれる業種は?|飲食や建築から伝統工芸まで!職人の種類

 

この多くの職人達の活躍によりものづくり大国、日本なんて呼ばれた時代もあり、職人の技術というのは重要な意味を持っていました。

 

その職人の多くは、丁稚制度(弟子)を利用していて、多くの場合は住み込みで親方(社長)から技術を教えてもらい一人前になるまで務めるというのがほとんどでした。

畳職人の修行

 

職人の修行とはどういったものなのか。昔に比べ、今では職人の修行をする人は減り、希少な存在になりつつあります。私は畳職人の修行を京都で六年間(正確には丁稚:四年間+職人二年間)行ったので、その修行について私の経験を元に解説していきたいと思います。

 

畳職人の修行期間は3年8ヶ月。4月に弟子入りし、3年8ヶ月後の12月に修行が終わる。なぜ畳職人の修行期間が3年8ヶ月かというと、畳職人には国家資格である畳製作一級技能士という技能資格があります。これを最短で習得するには、畳の学校に通って畳製作二級技能士の取得、尚且つ実務経験が必須となります。その畳の学校の期間が3年8ヶ月なので、畳の修行期間は3年8ヶ月だと言われています。

 

▼関連記事:畳の学校って知ってる?|京都伏見区にある京都畳技術専門学院を紹介

 

畳職人の修行は基本、住み込みです。ただ、修行先の畳屋によっては住み込みか、アパートか選べるところもあるので、修行先のお店次第になります。

 

人の家に住みこむ。と聞くと、気を遣いそうとか、疲れそうとかイメージしそうですが、そんなことはありません。それこそ今まで何人も弟子を取ってきたわけですから、弟子が気を遣わないように配慮されているし、社長もおかみさんもとても親切にしてくれて、私的には実家より居心地良い場所でした(正月休み帰らなかったこともあるぐらい)。

 

▼関連記事:【京都に丁稚奉公】畳屋の弟子の1日とは?|畳職人の修業を解説

 

修行の1日については、上の記事を見ていただくとして、畳職人の修行の目的といった話をしたいと思います。目的の一つは先述した畳製作一級技能士を最短ルートで取得すること。もう一つは、修行しないと学べないような知識と技能を得ることです。

 

この修行しないと学べない知識と技能は、今回の記事の主題でもある職人とは何かにも関係している話になりますが、昔は職人の知識や技術というのは一子相伝の秘技でした。

 

教えてもらえるのは息子や兄弟、そこで学ぶ弟子だけ。誰でも教えてもらえるものではないし、誰でもすぐに習得できるものでもありませんでした。

 

しかし、それだと日本の伝統的な技術が失われてしまう可能性がありますよね。そこで畳の学校という教育機関?職人育成機関?を設立し、技術の継承を後世まで安定的に残していける制度を構築しました。

 

これは畳職人だけでなく、多くの職人業にも当てはまることです。

 

つまり、今まで帳の中に隠されていた職人の知識だったり、技能は少しずつではあるものの、世間にオープンになってきた。それが職人の変革であり、後で後述する職人の経験とは?にも深く関係することになります。

 

 

ただ、その前に職人の歴史についても話をしたいと思います。

職人の歴史

 

職人と呼ばれる人たちが出現したのはいつ頃なのでしょうか。

 

業種によって違いますが、古事記に『鍛治職人』が出てくるので、今から約1300年前の712年以降には確実に存在した人達となります。

 

しかし、職人の実態については不明な点が多いため、あまりよくわかっていません。

 

ですが、職人歌合類など文学作品において様々な職種の職人の姿が描かれていて、職人歌合は朝廷や貴族に従属する職人を和歌によって結縁させて、怨霊の鎮魂など呪術的意図によって作成されていたと考えられています。

 

また、職人歌合類は時代の変遷とともに描かれる職種が増加していることから社会の変遷を反映した歴史資料としても活用されているそうです。

 

※職人歌合:職人歌合は職人を題材とした日本中世の歌合

※結縁:仏道に入る縁を結ぶこと。仏道に帰依(きえ)すること

ウェキペディアより引用

 

このようなことからか、職人の数は次第に増え続けました。丁稚の数は江戸時代が最も多かったそうですが、明治時代になると商人という扱いに変わっていく業種も増えていきました。

現代の職人

高度経済成長期に入ると職人の業界も変化していくことになります。増えすぎた需要を賄おうと生産性を上げる為、作業の機械化を推し進めていったのです。

 

これにより、製品の全ての部分を職人の手で製造から機械を使って作業効率を高めて大量生産の方にシフトしていく職人が増えていきます。よって競争力が高まり、手だけで作る職人が減っていき、どんどん機械化が進んでいきます。

 

もちろん畳業界でも機械化は進み、今ではほとんどの畳屋に機械が導入されています。

 

建築分野においては『ツーバイフォー工法』『プレハブ工法』など、伝統的技術を要しない工法が大手ハウスメーカーなどにより普及しました。

 

また伝統工芸品の職人業界では、外国からの安物輸入品や国内の大量生産品の影響で需要が減少。後継者不足が原因でお店を閉めてしまう職人が増えてしまいました。

 

これが現代の職人の実情です。

これからの職人

 

これまでの職人は手作業で優れた技術を持ちそれを矜持としてきました。

 

しかし、機械化が進んだことで大きな部分で手作業が必要なくなったこと。大きな部分で手作業がなくなると職人にとってこれまで当たり前だった「経験の定義」が変わることになります。

職人にとっての経験とは?

では、職人の経験とは何でしょう。

 

畳でいうと、主要となる製造が手から機械に変わると一枚あたりにかける時間は短くなります。

 

機械で出来ない部分を除くと8〜10倍も早く製造することができます。

 

つまり、機械というのはデリケートで繊細な(職人の手の感覚が必要ない)場所を代替してくれているわけです。

 

それは、一枚あたりにかける時間を短縮して、さらに技術を要する箇所で時間をかけて施工できるという点で機械化というのは合理的であることがわかります。

 

職人の業界でもこれだけ機械化が進んだ理由として理解してもらえていると思います。

 

それは職人の今まで考えてきた経験の定義が変わり何に時間を使うかがより重要になってくることとリンクします。

 

つまり、職人における経験とはどこで、誰に、何枚、どのようなプロセスで教えてもらい製造出来るようになったのかと言う従来の主張では無く、お客様のことを考え技術が必要な箇所にどれだけ目を向けて仕事が出来たかにシフトしたのです。

 

かなり昔になりますが堀江氏のツイッターで寿司職人で何年も修行するのはバカだという発言がありました。

 

『バカ』と『寿司』いう言葉は外しておくとして職人の業界にとってはとても重要なことをおっしゃっていると私は思います。

 

私の解釈で間違っていたら申し訳ないですが、これからの職人は、もっと効率の良い学び方をして短い期間で学習を終わらせ、事業をはじめてみてお客様が何を求めているかに目を向け研究するのに時間を費やした方が経験になるということだと思います。

 

批判もありましたが、これは職人の業界で必要な意見だと思います。

 

第四次産業革命を迎えて

 

安倍政権は世界の安定的な成長をけん引していくとして成長戦略の柱第四次産業革命を推進していくことを伝えています。

 

この第四次産業革命はIoT・AI・ロボット・そしてビックデータを活用して産業構造を大きく転換しようという取り組みであります。

 

大賛成である一方で職人業界がどうなるのかについては考える必要性があります。なぜかというと一部の起業家・学者などがAIやロボットが人間の仕事を奪うとおっしゃっているからです。

 

まるで産業革命の時のようですね。しかし、その時とは技術的革新の次元が全然違うと言われています。

 

ただ一方でシンギュラリティ(技術的特異点)は来ないとおっしゃっている人もいますが・・・・

 

どっちが正しいかの議論は専門家にお任せして、どちらの意見になるにしろ多くの仕事で現状が変化することは間違いないわけです。

 

それも遠い未来では無く、近い将来に起こることだと思います。

 

グーグル発のスタートアップ企業が開発しているのは人工知能で家やマンション、ビルを設計すること

グーグル社から独立したFlux社は、同社で開発した自動設計システムの事業化を図っている。建物の意匠や構造、設備の要素データを含んだ『建築の種』をパソコン上の敷地に配置すると、三次元モデルを自動生成する。法規制をクリアするように位置や高さ、長さなどを調整できる

 

アメリカのスタートアップ企業が開発しているのは3Dプリンターで家を建てること

 

[NEWS] 3Dプリンターで作られた家?

 

ハウスメーカーをはじめ建築系の情報処理の仕事も一部の職人の仕事も必要なくなる日も近いということです。

 

これからの職人に必要なこと

職人にとってインターネットはあまり必要ないことでした。

 

地域密着型ですし、技術力があれば何もしなくても仕事が入りました。

 

これからは違うと考えます。

 

一部の地域は過疎化していき、技術力は科学技術(テクノロジー)が担います。

 

そうなった時に今までよりも幅広いコミュニティが必要になるでしょう。

 

それはインターネットで解決出来る問題です。

 

インターネットを使えばお会いしたことのない人と繋がれますし、情報を共有できます。

 

ユーザーと施工者をマッチングして仕事を増やすことも出来ます。

 

▼職人のマッチングサービスはこちら:建設業界の人手不足を解消する人気おすすめ職人マッチングサービス6選 

 

 

作業動画をYouTubeに投稿すれば、技術が金銭に変わります。修行した経験や体験、知識をブログに書けば、それがお金に変わります。

 

これからの職人に必要なのは、ただ技術を学ぶこと、ただ勉強することではなく、インターネットを使ってそれをアウトプットしていくこと。それこそがこれからの職人にとって必要なことだと思います。

最後に

 

これからの職人には『この先進んでいくテクノロジーを受け入れて使いこなす』という考えが必要だと思います。インターネットはその入り口と捉えてもらい使っていただきたいと思っています。

 

職人とは何か?の定義は変わっていくもの』だとしてその先に職人としての矜持は失われないだろうかと心配になる人もいるかもしれませんが、より繋がることで新しく、より創造的な商品・サービスを生み出すことができるかもしれません。

 

なので大事なのは受け入れること

職人の業界はこれからは変わらなければならないと私は思います。

 

読んでいただきありがとうございました。

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