畳を作る技術には差がない?畳屋が絶対に言いたくない畳製作の秘密

みなさん、こんにちは。樋口畳商店の樋口です。今回は、畳を作る技術には差がない?畳屋が絶対に言いたくない畳製作の秘密を紹介します。

畳作りに興味がある方、畳の交換を考えている方、畳職人の方々に読んでいただければ幸いです。

畳を作る技術には差がない?

畳を作る技術に差がない。こんな事を言えば多くの畳職人や畳を愛するお客様から批判されることでしょう。確かに、かつての畳作りは技術職でした。

お部屋の寸法に合わせて一枚一枚畳床を切り、框が丸くならないように板を入れ、イ筋を整えながらしっかりと畳表を張って、大きな針と糸で縫い合わせる。

上手な畳職人が作れば真っ平らで耐久性の高い畳が出来上がり、下手な畳職人が作れば凸凹(でこぼこ)で耐久性の低い畳が出来上がる。

畳職人は間違いなく技術職であり、高い技能が必要な仕事でした。これは疑いようのない事実です。

しかし、現在では畳を作る技術にはほとんど差がありません。(一部の特殊な畳を除いて)

畳屋が絶対に言いたくない畳製作の秘密

現在、ほとんどの畳屋は畳を製造する機械を使っています。昔の機械は畳を縫うだけの性能しかもっておらず、それ以外の部分で技術的な差がありました。

私が使っている機械も縫うだけの機械で、それ以外は全て手作業で行い、縫う作業であっても機械では縫えない畳が沢山あるので、結局は手縫いをして畳作りをしています。

そのような畳屋を経営している方もまだ日本全国にはいますが、多くの畳屋で自動化された機械を導入する傾向が強まっています

畳の自動化とは、従業員一人でボタンを押して畳を作る製造方法で、寸法も床落としも畳表落としも表張りも框抜い平刺し返し縫いも全て機械が行ってくれます。

畳が自動化されることで作業が簡略化され素人でも畳が作れるようになり、作業が効率化されたことで一日の畳生産数が3倍〜4倍にまで向上。それに伴い製造コストが下がるのでお客様には安く畳が提供できる。といった大きなメリットがあります。

経営者の立場からすれば、熟練の職人を雇うより自動化する機械を購入した方が人件費も安く済むのでお得だし、製造に掛かる時間が短縮されるので違うことに時間が使える。

なので畳を自動化する機械を導入するのは間違いなく合理的な経営判断だと思います。

とはいえ、大きなデメリットもあります。

それが畳の技術レベルが同じになることです。

畳を自動化する機械は素人でもボタンを押せば畳を作れます。つまり技術を習得した職人でなくても畳を作ることができるわけです。

それは同じ畳を大量に生産することになります。

もし、近所の畳屋全員が畳を自動化する機械を導入したらどうなるでしょう。どこの畳屋に頼んでも同じ機械を使うわけですから同じ畳が出来上がるわけです。

つまり畳を作る技術に差がないということになります(何度も言いますが一部の特殊な畳は除いて)。これが畳を自動化することのデメリットであり、今後畳業界がぶつかる大きな壁になると思います。

畳製造を自動化した先にある未来

とはいえ、まだ全ての畳屋が畳製造を自動化しているわけではありません。この話は少し先の話になると思いますが、もし全ての畳屋が畳製造を自動化すると未来はどうなるのでしょうか。

間違いなく価格競争になります。お客様からすればどこに頼んでも同じ技術で、同じ仕上がりになるのなら安い畳が良いに決まっています。

であれば畳屋は他社より安く畳を作れることをPRして価格競争で勝とうとします。実際問題として、もうすでに価格競争は始まっていて、ごく一部の畳屋は利益率を下げて価格によって畳の仕事を取ろうと頑張っています。

ただ、歴史的にみてもこういった経営は悪手になるケースが多く、今後かなり厳しい戦いになると私は思います。

樋口畳商店の畳作りはどうするのか

ここまでお話をして樋口畳商店は畳作りをどうしていくのか。ちゃんと答えないといけないと思います。

樋口畳商店は畳の自動化は一切しません。

その理由は、これからのものづくりは簡略化ではなく、複雑化することが正しいと信じているからです。複雑化とは、先ほどの話であった効率化や生産性をほぼ無視して、逆に工程を複雑にすることです。

例えば、樋口畳商店がオリジナルで作っている折りたたみ畳マットレスシリーズ。

これは一枚の畳を四分割にして再び縫い合わせることで折りたたむことを可能にした商品です。

さらに畳を分割数を増やし、より複雑にした畳も作りはじめました。

これらは畳の語源で「畳める」を再現した商品になりますが、日本全国からお問い合わせをいただき、多くの方に購入していただいております。最近ではオーストラリアなど海外のお客様からもお問い合わせをいただいており本格的に越境販売を始めるところです。

これらは自動化では絶対に作れない商品です。つまり、私は自動化とは真逆の複雑な仕事を手で行うことに力を入れていこうと思っています。

何が正しいのか自分だって自信はありませんが、自分は京都で教えてもらった技術を大切にして畳作りを頑張っていこうと思います。

最後に

私は畳屋を開業する時、機械もお店もありませんでした。お客様の家でシートを敷いて、台を設置して、糸と針だけを使い、全て手縫いで畳を作っていました。手縫いは生きるための方法。飯を食べる為の手段だったのです。

しかし、畳の技能グランプリに出場している選手を見ていると、日頃明らかに手縫いで畳作りをしていないのがわかります。おそらくボタン押して畳作っているのでしょう。

誤解ないように言っておきますが、私は畳の技能グランプリに出場している選手を批判するわけではありません。その選手の中には優勝した私の先輩のような素晴らしい技術者もいます。

私が言いたいのは技能グランプリという名誉ある大会に出場する選手であっても手縫いが生きる為、飯を食うためではなく、エンタメとして、自らのお店のブランディングとしての手縫いになってしまっているということです。

それぞれのお店、それぞれの経営方針がありますから、それを否定することはしませんし、私は私のやり方で頑張るだけです。

ただ、せっかく畳職人になったのに本当にそのままでいいのか。私たち畳屋の技術は何の為にあるのか。畳職人の先人達は何を考え、何を想い、畳の技術を生み出したのか。

畳を作るとはどういったことなのか。この記事がそれを考えるきっかけになればと私は願っています。

読んでいただきありがとうございました。

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