【商品開発ストーリー】折りたためる畳マットレスができるまで

皆さん、こんにちは!樋口畳商店の樋口です。このブログでは“折りたためる畳マットレス”の開発秘話を紹介します。「ズレない」「柔らかい」「軽い」──畳職人がたどり着いた“理想の寝心地”。その開発の裏側を初公開。

  1. 畳の寝心地を、もっと自由に──この商品が生まれたきっかけ
  2. 試作の日々。畳職人としての挑戦
  3. 伝統と現代の融合。他にはない価値を求めて
  4. 次の挑戦へ。これからの展望
  5. 最後に:この畳マットレスに込めた私の想い

折りたためる畳マットレスの購入を検討している方も、そうでない方も読んで想いを感じていただけたら嬉しいです。

畳の寝心地を、もっと自由に──この商品が生まれたきっかけ

ある時、親戚から畳を二枚作って欲しいと依頼があった。

その理由を聞くとワンルームに引っ越したのだが、ベットが大き過ぎて邪魔になってしまったとのこと。マットレスだけとも考えたそうですが、寝汗でカビが生えるのではないかと不安になり、畳が良いのではないかと私に依頼してくれました。

最初は置き畳を考えました。置き畳とはフローリングに置いて使う畳のことで、リビングなどに人気の高い商品になります。

しかし、置き畳は自分も使ってて思ったのですが、すごいズレる。畳と畳の間に埃がたまり掃除が面倒なのがデメリットです。

ズレ防止に滑り止めを使っても良かったのですが、寝具として使うと寝ている時の体温で滑り止めが温まり溶けて床につくという事例が確認され、滑り止めを使わずにズレない置き畳を作れないか考えました。

そこで考えたのが2枚の置き畳を繋げてしまう方法です。

畳縁に糸を通して繋げる方法。これは有職畳の技術を使っています。有職畳とは伝統的な儀式などに用いられる畳のことで、主に宮内庁関係や神社仏閣に納められています。

私も京都修業時代、仕事で何回か作らせていただいた経験があります。(ただ、東京に帰ってきて自分で畳屋を創業してからは有職畳を作る機会は少なくなり、ほとんど使わない技術になってしまっていました)

この技術を応用すれば畳を繋いでズレない置き畳を作ることができる。これが折りたためる畳マットレスが生まれるキッカケになった出来事です。

試作の日々。畳職人としての挑戦

とはいえ、すぐに折りたためる畳マットレスが出来上がったわけではありません。この商品にはいくつかの問題点がありました。

糸が伸びる

畳と畳を繋げるのに糸で縫っているのですが、畳には重さがありますので、何度も折りたたんだり、伸ばしたりすると見えなかったはずの糸が伸びてしまい、表面に見えてしまう不具合が発生しました。

糸に引っ掛けているのは畳の縁ですから、縁が伸びてしまうのも原因の一つです。

どうやったら糸が伸びないようにすることができるか。私は何度も試行錯誤しました。

具体的にどうやって解決したのか詳しくは話したくないですが、伸びにくい糸に変えたこと、糸を滅茶苦茶に締めることなどの方法で解決しました。

分厚い畳表を付けると畳が反り返る

折りたためる畳マットレスは厚み15ミリ〜25ミリの床材を使用し作られています。畳床が薄くなればなるほど、分厚い畳表を付けると反り返ってしまう問題点がありました。

特に麻綿ダブルと呼ばれるランクの畳表は、よく張らないとシワがよりやすく、ピシッとした畳になりません。

どうやったら薄い15ミリの畳床に備後の中継ぎレベルの畳表を張り付けられるか、これは何度も何度も張って、何度も何度もやり直して試行錯誤しました。

流石に、備後の中継ぎは無理ですが、熊本産最高級ブランド「ひのさらさ」なら張り付けられるようになりました。

※麻綿ダブルとは、縦糸麻二本綿二本で構成されている畳表で畳表の高ランク品。畳表には綿一本で編み込んだ綿シングル、綿二本で編み込んだ綿ダブル、麻一本で編み込んだ麻シングル、麻綿ダブル、麻麻ダブル、麻綿六本芯、麻麻五本芯などの種類があります。縦糸の数が多ければ多いほど丈夫な畳表だと理解してもらって大丈夫です。

※備後の中継ぎとは、い草の真ん中だけを使うために中継ぎした畳表。宮内庁関係に納める畳表の最高級ランク品。備後表自体、現在は希少なものになりましたが、歴史的には古く高級品として知られていました。江戸時代、外様大名である福島正則が徳川家康に献上したことでも知られています。

※最高級ブランド「ひのさらさ」とは、品種「ひのみどり」を使用し厳しい加工基準をクリアして織り上げられたJAくまもとが認定する最高級ブランドのことです。

畳が硬い

こうして、折りたためる畳マットレスの試作品は出来上がったわけですが、私が実際に寝てみたところまず感じたのは畳の硬さでした。

そもそも最近の畳は硬い。藁床の時代は畳が柔らかくて煎餅布団一枚で寝ることができたなんて言われていますが、今は畳の上にマットレスを敷く時代になりました。

これは本来の畳ではないです。マットレスなんて無くてもゴロッと寝られる。それこそが畳の魅力だから。

私は畳のクッションについて色々試しました。実際にマットなどにも使われているチップウレタンや畳のクッション材、麻の不織布など、何か良いものはないか探しまくりました。

どのクッションも最初は柔らかい。寝っ転がると気持ちは良いのですが、柔らかいクッションほどヘタるのが早いのが問題でした。

そこで目を付けたのが柔道用クッションです。(詳しく言うと材料屋さんからアドバイスをいただいた)

そもそも柔道用の畳は柔らかいのに、何回投げ飛ばされたり、何回も蹲踞してもへたりにくい耐久性の高い商品です。つまり柔道用クッションを使うことで、柔らかく耐久性の高い畳が出来上がるのではないか。

試作品が出来上がり、寝てみたところ完璧でした。これまでにない畳の柔らかさ、そして何度同じ姿勢で寝てもへたりにくい耐久性、畳業界だけでなく、マットレス業界でも革新的な商品だと思います。

伝統と現代の融合。他にはない価値を求めて

折りたためる畳マットレスが出来上がった時、私は畳の原点回帰だと感じました。

そもそも畳は和室に敷かれる敷物だったわけではありません。その昔、今から1000年以上前になりますが、まだ和室がない時代の畳は、板の間の上に置かれて寝具もしくは座椅子のように使われていたと言われています。

今で言うベットに近いですよね。きっと板の間で寝るには硬くて寝心地が悪かったのでしょう。

ムシロやマコモを何枚か重ねて柔らかくクッション性を保ちつつ、糸で締めて耐久性を上げた。現在は素材も違うし、作り方も機械を使ってより簡単に、より強く糸で締めることができますが、構造自体は昔とほとんど変わりませんね。

また、畳の語源には諸説ありますが、畳は折りたたむことができたから畳と呼ばれるようになったと言われています。(畳はタタムシロと言う言葉から来ていると言われており、ムシロを重ねるムシロをたためる総じて畳と呼ぶ説があります。とはいえ綺麗な状態で残っている畳がないので、本当かどうかは定かではありません。奈良県正倉院に現存する聖武天皇が使ったとされる御床の畳もありますが、ボロボロです)

折りたためる畳マットレスも折りたたむことができ、使わないときは折りたたんで収納できる寝具になっています。

まさに折りたためる畳マットレスは畳の原点であり、歴史に回帰する商品になっています。

畳の外側は伝統、中身は現代の技術。折りたためる畳マットレスは伝統と現代の技術を織り交ぜて作られた他にない価値がある商品なのです。

縁なし畳への挑戦

伝統を現代に持ち込む為には、現代で使う人々のことを考えなくてはなりません。現代では北欧風の家具が流行り、外国的な空間デザインが好まれます。

そこに伝統的な畳デザインを持ち込んでもお客様から支持されることはない。私は折りたためる畳マットレスで縁なし畳への挑戦を決意します。

これが本当に難しかった。と言うのも縁なし畳は縁付きと違い、繋げるのに縫う部分がありません。縁がないのにどこで縫うんだって話です。もちろん、い草に糸を掛ければ切れますのでダメです。

本当に試行錯誤の連続でした。

これをどうやって可能にしたのか、これは秘密です。やっぱり苦労したものだから友達なら教えて差し上げますが、ブログに書くことはできないです。

ただ、私ができるのだから誰でもできます。何度も試行錯誤して考えて、頑張ってください。

縁なし畳を繋げる技術を応用して

今回のことで、たくさんの学びを得たのですが、その一番が技術は応用できることです。縁なしで繋げる技術が可能になると上の画像のように複雑な加工の縁なし畳も繋げることが可能になります。

また、石畳調の折りたためる畳もできるようになります。これらは相当な時間を要する為、商品化するにはまた難しいですが、加工技術が進歩すればお客様のご自宅に安価でお届けすることもできるでしょう。

さらに置き畳だけでなく、畳を繋げて壁に貼り付けたり、アート性のある作品として作ることも可能です。

無駄な技術、使わない技術は世の中にたくさん眠っていると思いますが、それらは技術の使い方を知らないだけで本当に不要な技術はこの世に存在しないのではないかと私は思います。

技術を学ぶことは本当に大切なことだと、今回の商品開発でよくわかりました。

次の挑戦へ。これからの展望

樋口畳商店の次の挑戦。それはふたつあります。

ひとつは折りたためる畳の海外販売です。

樋口畳商店では海外に販路を広げて、日本の畳文化を広げています。海外には畳が欲しいと言うお客様が数多くいらっしゃいます。しかし、これまで畳を欲しい海外の方がいても莫大な輸送料金で諦める方も少なくありませんでした。(例:メキシコに6畳の畳を輸送すると50万円を超える)

樋口畳商店では、その問題を解決します。

畳を折りたためるように施工することで安く海外に輸送します。さらに樋口畳商店では重さも革新します。これまでの畳は藁床で40キロ、建材床でも15キロぐらいでしたが、樋口畳商店の畳は8キロ台を目指して日々試行錯誤しています。(8キロ台だとEMSで3枚分梱包可能。メキシコへの輸送費用を概算で出すと6畳で11万5千円ほど)

ただ、軽量化すると耐久性が悪くなるのではないかとお客様は不安になりますよね。確かに軽量化するということは耐久性の低下と同義です。ただ、その問題も解決する見通しは立っています。おそらく今年2025年の夏までには耐久性の問題も解決し、一枚8キロの畳が出来上がるかと思います。

ふたつめは、折りたためる畳マットレスを新しくデザインすることです。私は折りたためる畳マットレスが完成した商品だと思っていません。

まだまだ改善する余地は残っています。その最たるところがデザイン性です。現在の折りたためる畳マットレスは日本的なデザインのものを数多く作っています。それは京都で修業した私の経験が商品に現れているからだと思います。

ただ、今後は新しい時代を担おうと思っているわけですから、日本的なデザインだけではいけません。西洋的デザインのものや中華的デザインのもの、アメリカンなもの、アジアンテイストなデザインなものと空間を邪魔しないデザインの折りたためる畳マットレスを開発しなければいけないと考えています。

樋口畳商店の折りたためる畳マットレスのこれからの発展をぜひとも見守っていただければと思います。

最後に:この畳マットレスに込めた私の想い

今、日本のい草農家さんは減少傾向にあります。その理由は高齢化と後継者問題、それと儲からないから。年々肥料も綿糸も麻糸も値上がっているのに畳表の値段は上げられない。

い草の栽培刈り取りは大変な仕事なのにも関わらず、金銭には交換できない。

やめたくなる気持ちも理解できます。でも、私たち畳屋にとって国産い草の農家さんがやめてしまうのは本当に困るのです。

私は32歳なのでまだ後40年くらいは畳屋をやるつもりです。その間、い草農家さんがいなくなってしまったらどうするのか。私は不安でたまりません。

とはいえ、私にできることは国産い草を使って畳を作ることだけ。何かお力に慣れれば嬉しいのですが、何もできない状況です。

せめて、折りたためる畳マットレスは、最高の国産い草をどんどん使っていきたい。お客様にも国産の良さを理解していただいて、国産を選んでいただきたい。

ぜひ最高の国産い草で作られた折りたためる畳マットレスをお買い求めください。もし「この畳、気になるな」と思っていただけたら、ぜひこちらをご覧ください👇
▶︎ [商品ページのリンク]

最後に

この折りたためる畳マットレスには色々な思いが込められています。

開発段階での想い、畳の原点としての想い、技術的な想い、海外への想い、国産い草の農家さんへの想い、お客様への想い。

たった一枚の畳商品にも、こんなにたくさんの想いが詰まっていることを考えると、世の中に溢れている商品の数々にも、きっと同じようにたくさんの想いが込められているのだろう。

自分が商品開発をするまで、そんなこと考えもしなかったです。皆んな頑張っているんですね。最後まで読んでいただきありがとうございました。

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