
この記事を書いた人

一級畳製作技能士/樋口畳商店 代表
京都市にある黄綬褒章を受章した現代の名工の店「沢辺畳店株式会社」で修業後、東京都江戸川区にて樋口畳商店を独立開業。
京都畳競技会 京都府知事賞優勝/国家資格 一級畳製作技能士 取得。
2021年10月27日(水)、TOKYO MX「バラいろダンディ」に出演し、畳職人としての技術やこだわりが特集されました。
東京都江戸川区の神社仏閣から一般住宅、お茶室や屋形船、ゲストハウスまで幅広い施工実績。


畳張り替えたいんだけど!
畳を張り替えたいと思っても、畳の張り替えって「どこに頼んで良いかわからない」「畳の張り替えはめんどくさそう」とかよく聞きます。
今回はそんな畳の張り替えに関するお客様の疑問を解決します。この記事では畳の張り替えについて一連の流れの説明と畳の張り替えに関して注意してもらいたいことなどを紹介します。
畳表替えって何?畳の張り替えについて知りたい方の参考になれば幸いです。
畳の張り替えとは?
畳の張り替えには大きく分けて三つの工事があります。
- 畳の表替え工事
- 畳の裏返し工事
- 畳の新畳工事
畳の表替え工事とは、畳の表だけを張り替える工事のこと。畳の裏返し工事とは畳表をそのまま裏に返して施工すること。畳の新畳工事とは畳表と畳床全てを新しくする工事のこと。
注意してもらいたいことですが、畳の裏返し工事で一番多い誤解が畳をそのまま裏返しにすればいいと思っている方がいらっしゃいますが、畳の裏返し工事とは畳を裏に返すことではありません。
畳床に付いている畳表を裏に返すことです。わかりやすく言えば上敷きありますよね。2〜3年使ったら陽に焼けて色が変わりますが、裏に返せばまた綺麗な色で使えます。
あれと原理は同じです。
畳の構造について詳しくはこちら:
畳の張り替えってめんどくさい?
畳の張り替えってめんどくさそうと言われることは良くあります。
確かに畳の上には家具が置いてあって、家具の裏には長年溜まったホコリなどを掃除しないといけない。畳の張り替えって面倒だなと思う気持ちもわかります。
ですが、ご心配はいりません。樋口畳商店を始め、多くの畳屋は家具の移動などをやってくれる他、掃除などもしてくれます。
※畳屋は掃除の専門家ではないのでピカピカにはできません。ホコリを取るぐらいです。ただ、畳屋の中にはハウスクリーニングをしている畳屋や産廃業をやっている畳屋もあります。もしそういったサービスを望む場合には前もって畳屋に尋ねましょう
畳替えの時期っていつ頃がいいの?
おすすめの畳替えの時期は一概に言えません。使い方によって5年の時もあるし、10年の時もあります。環境によってはもっと早く交換した方が良い場合もありますし、まだ交換しなくても良い場合もあります。
ペットを買っていたり、子供がいる場合は結構な頻度で痛んでいるケースがあるので畳屋に聞いてみてください。
季節に関して11月に新しいい草(新グサ)が入荷します。ですが、新しいい草(新グサ)は何かと使いにくい。焼けやすかったり、カビが生えやすかったりします。なので半年ほど寝かせた5月頃に畳替えをすると良いでしょう。逆にオススメしない季節は梅雨の時期になります。その時期は湿気が溜まっていますのでオススメできません。出来れば梅雨が終わってからの畳替えが良いでしょう。
▼い草についてはこちら:
畳の張り替え工事の流れ
畳の張り替え工事は新畳工事と表替え&裏返し工事で少し流れが違います。
新畳の工事の流れ
新畳の工事の最初は寸法取りから始まります。畳は一枚一枚寸法が違う物なので、お客様の家にお邪魔して正確に寸法を測らなくてはいけません。基本的に見積もりとセットで行われることが多いので、ほとんどの畳屋は寸法道具を常備して行きます。
もしかしたら寸法を取る際に家具や小物を動かして採寸する場合があるので、貴重品などは安全な場所に置いてください。
次に取った寸法を工場に持って帰り、製造に移ります。
製造過程はお店によっても(手法が違う)、商品の種類によっても違いますが、今回は私が実際に製作した畳の製造過程を見ていただこうと思います。
畳の枚数や仕事状況にもよりますが、納期はだいたい1週間ぐらいで。畳が出来上がったらお客様の都合の良い日、時間に合わせて納品を行います。
お客様が使っていた畳を引き上げて掃除し、新しい畳、新畳を納品。納品にかかる時間は、畳の枚数、荷物の数によって時間は違いますが6帖であれば20分〜1時間あれば終わると思います。
今まで使っていた古い畳は畳屋に言って処分してもらいましょう。畳屋は業者なので捨てられる量が一般の方より多いですし、細かく切って捨てるため、余分はゴミ箱に入れます。
新畳工事の流れはこのような感じです。ただ、枚数によって段取りが変わることはありますので、納期の確認については必ず畳屋と事前にやり取りしてください。
表替えと裏返しの工事の流れ

では、表替え、裏返しの工事の流れについて説明していきたいと思います。表替えも、裏返しも、基本的に朝に畳を引き上げて、夕方畳を納める「その日仕事」を基本にしてます。
何日間も畳が無かったり、業者が家に出入りされたら迷惑ですよね。私たち畳職人は少しでもお客様がたの負担が減るように努力します。
とはいえ、畳の枚数や仕事の状況によっては1日で出来ない場合もあります。その辺のご理解はいただければと思います。
畳の引き上げ納品手順はお客様の家によって状況が変わりますが、だいたい30分程度で終わると思います。新畳の流れと比べるとお客様の家に二回お邪魔するわけですから、お客様からすれば一回で終わる新畳の方が気持ち的には楽かと思います。
畳替えの際に大事なこと
畳替えは毎年するものではありません。五年に一回、十年に一回、長い人だと二十年に一回なんてこともあります。
もし二十年間畳を替えていないと畳の間に溜まったホコリや畳をあげた時の床下も結構なことになっている可能性があります。
それがホコリ程度なら良いのですが、湿気が溜まっているとカビや害虫、ひどい時にはシロアリの原因になってしまうこともあります。
そうならない為にも頻繁に畳替えをして欲しいとは言いません。ただ、一年に一度畳を少しだけあげて換気だけしてあげてください。

もし畳をあげられない方は防湿シートを敷かれることをお勧めします。ただ、畳工事が終わった後にこれを言われると少し困ってしまいます。出来れば畳替えの前か、畳替えの最中にお願いします。
畳の施工について

お客様から預かった大事な畳がどう施工せれるのかについて簡単に説明したいと思います。
畳が工場に運ばれてくると畳は台に積まれてキレイに解体されます。それから畳の床が傷んでいるところを補修工事したり、寄席の隙間が空いていたところは丈・巾を出したりした後で畳表を張り縫い合わせます。
上のYouTube動画は工程の1つ『からくり(かがり)』という作業です。畳表の端は取れやすいもので時間が経てば緩んできてしまいます。
そこで麻糸を使いしっかりと端止めをします。
これは主に湿気の多い地域で行われる作業で床の裏に畳表を曲げられない(曲げてしまうとカビで裏返しができない)ところで使われます。
特に京都は盆地なので湿気が溜まりやすく日常的にこの作業を行なっていました。
次に畳表を張り付けていきます。藺草の筋が曲がらないように真っ直ぐに畳表を引っ張っていきます。
次に畳表を縫い付けていきます。
しっかりと糸を引っ張る事で長持ちする良い畳を作ることができます。
ここまでの工程を『前立て』というのですが、表替えはここまでがとても大事でお客様の満足のいくような畳を作れるかは前立てで決まります。
これは平刺し縫いという作業です。畳屋さんと言えばこうだよね!とよく言われる通り、肘で糸を締めていきます。
平刺し縫いが終わったら畳縁を畳んで隅を整えて縫っていきます。
最後に返し縫いで畳縁を縫い付けて完成です。
では、ここで畳の縁について説明したいと思います。

数十年前の畳縁というと単色の黒、茶が主流でした。今は数百種類の畳縁が存在するため選ぶだけでも迷ってしまうと思います。
▼人気おすすめの畳縁はこちら:
▼畳縁の柄には意味がある:
もちろんお好きな色を選んでいただければ良いのですが、ひとつポイントとして高い値段の畳縁だから強度がある&高い値段の縁だから汚れに強いわけではありません!!!
最高級麻縁は別として、綿糸で織った畳縁とかすごい綺麗ですけど頻繁に使う部屋の畳には向いてないです。
商品名を名指しで言えないですが、めちゃくちゃ色が綺麗な高価な畳縁なのに、シミができやすいとか汚れやすいとか、日焼けしやすいとかあります。
そういうのを畳屋は全部知ってますが・・・・
「この畳縁、綺麗!これにする!」
「これ耐久性ちょっと弱いですよ!」
「えっ?」
なんか嫌な気持ちになりますよね。。なのでお客様の感性で選んだものをケチつけることはしません。
もし心配であればお客様の方から耐久性について畳屋にご質問ください。
※ただ全ての畳縁はJIS規格より許可された縁ですので普通のより少し耐久性が弱いというだけで、不良品なワケではありません。
▼畳ヘリに関してはこちら:
畳の施工について、畳の技術とは?畳職人のこだわりとは?といった記事も書いています。興味がある方はこちらもチェックしてみてください。
畳替え納品時の注意点
敷き込みが完了したら納品完了なのですが、最後に知っておいて欲しいことがあります。
畳には染土という自然の土を配合して作った粉が塗ってあります。雑巾で新品の畳を拭くと緑色が付着します。これが染土なのですが、なにも嫌がらせで付いている訳ではなく、染土は日焼け止めのためにつけているんです。
もちろん完璧に取ってしまってもいいんですが、よく陽が当たるところで使わない(踏まない)ところなんかは取らないでそのままにしとくほうがいいと思います。
畳屋さんの善意で完璧キレイに拭き取ってくれるところもあるようなので朝の段階で聞いてみるといいと思います。
もう一つは、よく換気をしてください。
新品の畳は湿気をよく吸います。天然のい草の良い香り、色を長く保つ為には晴れた日には窓を開けていただき、雨の日には閉じてもらう。
特に納品して最初の10日ぐらいは意識して換気していただくことをお願いします。日頃のメンテナンスが畳を長持ちさせる秘訣です。
▼カビについてはこちら:
▼ダニについてはこちら:
以上です。
最後に
いかがだったでしょう。
少しでも皆様の疑問を解決することに繋がったのであれば幸いです。
最後に畳職人の気持ちみたいなものを書こうと思います。
私は畳を作る時、お客様に対していろんな想いを込めて施工しています。畳って、それほど頻繁に張り替えしないじゃないですか。だから、少しでも長く使っていただけるように修理の方に時間かけて行なっています。
畳の修理って目に見えるものではありません。畳を踏んでもどうでしょう。
『ここ修理したんですよ!』
『覚えてないです(笑)』ってなりそうです(笑)。お客様には伝わりにくい事かもしれません
目に見えない、言葉でうまく伝えられない、でもそこに手間をかけるのが職人なのかなと思います。
▼樋口畳商店についてはこちら
読んでいただきありがとうございました。