
この記事を書いた人
一級畳製作技能士/樋口畳商店 代表
京都市の黄綬褒章受章「沢辺畳店株式会社」で修業後、東京都江戸川区で独立開業。
京都畳競技会 京都府知事賞 優勝/国家資格 一級畳製作技能士 取得。
2021年10月27日、TOKYO MX「バラいろダンディ」に出演。
2021年11月13日、練馬工業高校にて講演会を実施し、畳についての講話と畳コースター製作体験を行いました。
東京都江戸川区の神社仏閣から一般住宅、お茶室や屋形船、ゲストハウスまで幅広い施工実績。
みなさまこんにちは。樋口畳商店の樋口です。
ある日、一通の英語のメールが届きました。
送り主は、ギリシャにお住まいのシフィス様。
「日本へ旅行に行った際に畳の上で寝て、その寝心地に感動した。畳を購入することはできますか?」
その一文から、国境を越えた畳づくりが始まりました。
日本とギリシャ。距離にして約9,000km。
言葉も文化も異なる中で、「畳の心地よさを届けたい」という想いだけは共通していました。

なぜ柔道用フェルトを選んだのか
今回の製作で最も重要だったのは、「日本に旅行した際に体験した畳の寝心地をお届けすること」でした。
日本国内で使われている畳は藁床で作られており、適度なクッション性からマットレス無しのそのまま布団を敷いてお休みになる敷物です。
「日本で体験された畳の寝心地を再現すること」ということであれば、一般的な畳と同じ藁床で製作するのがいいのですが、ギリシャに藁床の畳を送るとなれば配送料がものすごく高くなるし、そもそも植物検疫などギリシャ側が輸入できるのかどうか怪しいです。
(藁床は多くの国で輸入規制されている)
なので、配送料が安く(畳が軽く)、クッション性が藁床に近い畳が求められます。
そこで採用したのが
👉 インシュレーションボードと断熱材に柔道用フェルトを縫い付けた40mm厚の畳床です。
■ 柔道用フェルトを使う理由
- 高いクッション性(畳らしい“柔らかさ”を再現)
- 長期間使ってもヘタりにくい
👉 職人の視点で言えば、
「ただ畳を作る」のではなく
👉 “お客様の望む畳を作る”ことが重要です
40mmという厚みは、見た目以上に意味があります。
薄すぎれば畳としての重厚感が失われ、厚すぎれば重くなってしまい配送料が高くなる。
このバランスは、経験がないと判断できません。

顔が見えないからこそ|海外取引で大切にしたこと
海外のお客様にとって、日本の畳屋に注文することは大きな不安があります。
- 本当に届くのか
- 品質は大丈夫か
- 支払いは安全か
こうした不安を一つずつ解消することが重要でした。
■ 実際に行った対応
- PayPalによる安全な決済
- 制作過程を写真で随時共有
- 配送・関税について事前に説明
- 納期・リスクの透明化
👉 特に意識したのは
制作過程を写真で随時共有したことです。畳はサンプルを送ることができませんから、「本当に自分が望む畳なのか」とても不安なことだと思います。
「見えないからこそ、見せる」こと
製作過程をしっかりと見せることで、お客様の不安を取り除きたいと考えました。

ギリシャから届いた一枚の写真
12月中旬に発送し、無事にギリシャへ到着。
後日、シフィス様から一通のメールと写真が届きました。
そこには——
👉 畳の上でくつろぐ穏やかな空間が写っていました。

さらに、こんなお言葉もいただきました。
「とても美しく、完璧な仕上がりです。
丁寧な対応と職人の技術に感動しました。
将来はこの上に布団を敷いて寝るのが楽しみです。」
👉 畳が、日本を飛び出して
👉 海外のお客様への日常に溶け込んだ瞬間
職人として、これ以上嬉しいことはありません。
畳は、日本だけのものではない
今回の経験を通して、強く感じたことがあります。
👉 畳の価値は、国境を越えるということです。
畳の香り、畳の質感、そして畳の寝心地のよさ。
それらは言葉を使わなくても畳の上でごろっと寝れば伝わります。
江戸川区の小さな畳屋から、世界へ畳を販売する。
日本の伝統は、まだまだ広がる可能性を持っています。
最後に
今回ご依頼いただいたシフィス様、本当にありがとうございました。
このご縁に、心より感謝いたします。
👉 海外発送やオーダーメイド畳のご相談も承っております。
ご興味のある方は、お気軽にお問い合わせください。
