【畳職人の技術とこだわり】見えない部分に宿る「長持ちする施工」への想い

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樋口 裕介(ひぐち・ゆうすけ)
一級畳製作技能士樋口畳商店 代表
京都市にある黄綬褒章を受章した現代の名工の店「沢辺畳店株式会社」で修業後、東京都江戸川区にて樋口畳商店を独立開業。
京都畳競技会 京都府知事賞優勝/国家資格 一級畳製作技能士 取得。
東京都江戸川区の神社仏閣から一般住宅、お茶室や屋形船、ゲストハウスまで幅広い施工実績。
一級畳製作技能士 資格証 京都畳競技会 優勝トロフィー

皆さん、こんにちは!樋口畳商店の樋口です。
今回は京都で修業した一級畳製作技能士が、畳職人の技術とは何か、こだわりとは何かをご紹介していきます。畳の技術こだわりに興味がある方の参考になれば嬉しいです。

畳職人の技術は「目に見えない部分」に宿る

こちらの画像をご覧ください。これは畳をひっくり返した裏面になりますが、色々と施工されているのがわかると思います。

畳という敷物は畳表が見える表面より、裏面の方がたくさんの技術が使われているのが特徴です。しかし、畳は部屋に敷き込む敷物です。裏面に関してはお客様に見られることはほとんどありません。

お客様のことを考え、どんなに良い施工をしてもお客様にはわからないわけです。

畳職人の技術とは、目に見えないところに使われること畳職人のこだわりとは、お客様の目に見えないところにいかに技術を使うのかということだと思います。

逆を言えば、お客様にバレないから悪い施工もできるわけです。例えば、湿度の高いお部屋の畳をタッカーで作ったとします。

納品した時は、糸で縫った畳とほとんど違いがありません。しかし、時が経つにつれて畳表はどんどんたるんでいきます。それはなぜかと言うと、タッカーの芯が錆びて畳表を止められなくなるからです。これは畳表だけでなく、畳縁にも言えること。使っているうちに畳がどんどん痛んできます。

一方、糸で縫った畳は10年経っても、20年経っても納品したそのままの形を保ちます。京都市にある大徳寺で見つかった400年前の畳ですが、未だに現役で使えるほど形を保っています。もちろんその頃、タッカーなんてありませんから畳職人が手縫いで畳を仕上げています。

要するに、当時の畳職人達が長く使ってもらえることを考え、畳を作ってきたから400年経っても畳の形が残って現役で使えているのです。

畳の表面が綺麗なのは当たり前。お客様の目に見えない部分箇所に技術を使い、こだわりを持つこと。お客様に長く使ってもらうために、これが必要なことだからです。

では、畳職人の技術とは具体的にどういったものなのかご紹介していきます。


畳職人が大切にしている三つの技術

1. 寸法を正確に合わせる

畳で一番大切なのは「寸法」です。
建物の壁や柱は真っ直ぐに見えても、実際には微妙な歪みがあります。そのため、ただ四角く作った畳を敷くだけでは隙間や段差が生まれてしまいます。

畳職人は寸法を取るものさしを使い、畳の長さと対角線、ヨセの歪みを正確に測らなくてはいけません。

樋口畳商店では、1ミリ単位で寸法を調整し、部屋にぴたりと収まる畳を仕立てています。正確な寸法は、隙間を防ぎ、畳の寿命を大きく延ばします。

ちなみにですが、畳には紋縁と呼ばれる紋が入った畳縁を扱うことがあります。

主にお寺や神社の話ですが、この紋縁は正確に寸法を測るだけでなく、割付や畳製作においての若干の歪みなどもかなり慎重になる仕事です。


2. 畳が長持ちするように施工する技術

畳の技術について最も大切なのは、お客様に長く使っていただくよう施工することです。畳はとても高い敷物です。6畳で10万円を超えることも良くあります。

それだけのお金をお客様からいただいているのだから出来るだけ長く使っていただきたい。これは樋口畳商店だけでなく、多くの畳職人の想いです。

では、どうしたら長く使っていただけるのか。ひとつはしっかりと縫うということです。これは手縫いに限らず言えることですが、糸が緩んでいると畳表がたるんだり、耐久性が低くなることがあります。また、糸が切れるなどの不具合も考えられます。

特に框縫い(畳の縁が付いていない丈の部分)は糸の締まりが重要です。

ただし、平刺しは糸を締めればいいというものではありません。畳の状態によっては糸を締めすぎると畳が凹んでしまう可能性があります。

平刺しをする時には畳の状態と相談しながら締めていくことが重要です。

もうひとつ重要なのは、畳床の修理です。

畳は敷物ですので、畳の上を人が踏んで歩きます。人間は同じ場所ばかりを踏んで歩くので、その部分だけ凹み痛んだきます。

畳職人は畳替えの際に傷んだ箇所を修理します。その修理の仕方は人それぞれですが、私が大切にしているのは、少し盛り上がった形で修理することです。

でも、それだと畳を踏んだ時に違和感が残るのでは?と思いますよね。確かに違和感は残ります。ですが、先ほど申し上げたとおり、人間は同じところを歩くので、また同じ箇所が凹むのです。しかも修理したところは痛むのが早いので、凹むまでの時間も早くなってしまいます。

なので、樋口畳商店では少しだけ盛り上がった形で修理します。そうすると、ちょうど馴染んできた時に真っ平らになるので、畳が長持ちするという理屈です。

これが正しいのかはまだわかりませんが、お客様からは大変喜ばれています。


3.畳の隅と 框(かまち)は補強して美しく仕上げる

畳を納めた時に美しく見えるのは、畳の框の角が立っているからです。畳の框の角がもし丸くなっていたり、畳の隅が凹んでいたら全く美しく見えません。

なので、畳の框と隅は丁寧に作らなければならないのです。

基本的に畳の框と畳の隅は凹みやすいところです。というのも、畳は敷き込んでいるわけですから、人が歩けば畳同士で摩擦が生まれます。摩擦が生じることにより畳の框と隅は丸くなったり、角が凹んだりしてしまうのです。

その為、昔は畳の框に板を入れて施工していました(現代でも板入れはありますが、高級畳のみになっています)。板を入れることで畳の框と隅を摩擦から守っていたのです。

ただ、現代だと手間がかかり過ぎる為、プラスチックのコーナーを縫い付けるのが主流になりました。私は個人的にプラスチックのコーナーより厚紙のコーナーの方が好きで多用していますが、どちらも畳の框と隅を守る為に取り付けるものです。

技術は隠すもの

ちなみにこの三つの技術以外にも畳縁の太さや畳表がほつれてこない為の工夫など色々とあります。ただ、全てをネットに書くのは気が進みません。昔は技術というものは一子相伝でした。誰にもバレないように秘密に教えられ伝わってきたのです。

私は技術をオープンにした方がいいと言う立場ですが、見ず知らずの人全員に技術を教えたいと思うほど人間が出来ていません。なので、今回はこの三つだけでお許しください。


樋口畳商店のこだわり:長く使っていただくために見えないところに技術を使うこと

私たちが目指すのは「納品直後が美しい畳」だけではなく、**「10年先、20年先も快適に使える畳」**です。

そのために、

  • 寸法を1ミリ単位で調整
  • 長持ちする為に耐久性を高める
  • 隅や框の角をちゃんと補強して仕上げて型崩れを防ぐ

この三つだけでなく、畳の状況に応じて様々な技術を徹底して施工しています。


まとめ:見えない技術が、暮らしを支える

畳の仕事は、完成後にはほとんど見えません。
しかし、寸法・耐久性・隅・框の角という基本を正確に仕上げることが、畳の美しさと畳を使える年数を決定づけるのです。

樋口畳商店は、これからも「長く使える畳」をお届けするため、見えない部分にこそ誇りと技術を込めて、こだわった施工をしてまいります。

※手間暇かけてこだわった施工をしていると効率が落ちて生産性が低くなるというご意見があります。確かに仰る通りで、手間暇かける分時間を費やすことですから、現代ものづくりの生産プロセスとしては誤っている可能性はあります。しかし、私は今の時代だからこそ手間暇をかけてこだわりを持って仕事をすることが重要だと思います。もしこの話題に興味がありましたら、以下のブログ記事をお読みください。

読んでいただきありがとうございました。

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