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一級畳製作技能士/樋口畳商店 代表
京都市にある黄綬褒章を受章した現代の名工の店「沢辺畳店株式会社」で修業後、東京都江戸川区にて樋口畳商店を独立開業。
京都畳競技会 京都府知事賞優勝/国家資格 一級畳製作技能士 取得。
2021年10月27日(水)、TOKYO MX「バラいろダンディ」に出演し、畳職人としての技術やこだわりが特集されました。
東京都江戸川区の神社仏閣から一般住宅、お茶室や屋形船、ゲストハウスまで幅広い施工実績。


皆さん、こんにちは!樋口畳商店の樋口です。今回は、畳屋のマーケティングとは?売り上げを伸ばしている店がやっている5つのことを紹介します。
これから畳屋を独立開業する方、売上が伸びなくて悩んでいる方の参考になれば幸いです。
売上が停滞する理由
- 心の問題:「昔は良かった」「これでいいはず」→現状維持バイアス
- 経費の使い方:必要な投資をしない・広告費をケチる
- ライバルとの競争:地域に強い畳屋がいると負けやすい
- お客様のニーズ不足:畳替えの必要性を感じてもらえない
心の問題
畳屋の先輩達と話をしていると「昔は良かった」と言う言葉を必ず聞きます。何もしなくても仕事が来た時代、それを懐かしんでいるのでしょう。
しかし、「今」は違います。恐ろしい速さで時代が進んでいます。AIの登場、テクノロジーの進歩、何もかもが超高速です。
「昔は良かった」などと嘆く暇はありません。もう立ちどまれないのです。今までパソコンを触って来なかった人にとって、ネットの世界は難しいでしょう。私だって苦手です。でも、苦手だから嫌だからと言っていたらどんどん時代に取り残されてしまいます。
経費の使い方
畳屋の経費の使い方を聞いていると「飲み会」が多すぎると感じます。私は飲み会を否定しません。そこで仲良くなった人に仕事を紹介してもらうこともあるし、新しい事業が生まれたりもします。
だから飲み会は行くべきとまで考えています。
ただ、飲み会が多すぎるとも感じます。町会の飲み会、消防団の飲み会、青年部の飲み会。これ全部入ります?毎回参加しないといけないことですか?
一年に一回、忘年会だけ参加すればいいんですよ。飲み会が多い人は経費の使い方をもう一度考え直すべきだと私は思います。
ライバルの競争
畳屋の数こそ減ったもののライバルとの競争は激しくなっていると感じます。その理由は、作業の効率化により畳の生産性が向上したことが要因です。
「畳がたくさん作れるのなら他の地域も畳替えをやろう」そう考えるのはビジネスの観点から間違いではありません。むしろ間違っているのは、自分の縄張りだと勘違いしている畳屋の方です。
ライバル店との競争が激しくなっているのなら戦う覚悟を決めて、その店に負けないようにアイデアを振り絞るべきです
お客様のニーズ不足
畳の需要は減った。こんな言葉何回聞いたことかわかりません。私は畳屋を自分で開業したのですが、畳屋を始める前、「畳は需要がないから絶対に儲からない」と言われました。
私はそれが半分正しく、半分間違いなことを知っていました。確かに畳の需要は減少傾向にあります。これは農林水産省のデータや建築業界が出しているデータからもわかります。
しかし、置き畳の需要は確実に伸びています。これはまだデータもありません。しかし、私が畳屋を経営してのデータと楽天やAmazonなどで売っている置き畳のクチコミ件数でわかります。
さらに海外への需要も伸びています。日本に訪れる外国人は年々増えていますが、そこで畳ルームを気に入って購入される方、茶道や柔道の普及などの理由から購入される方が増えています。
データはとても大事ですが、まだ見えていないデータにも着目することはもっと大事なことだと私は思います。
畳屋のマーケティングとは?
マーケティングとは、売れる仕組みを作ること
畳屋という商売を考えてみると、基本的にはお客様からの注文を待つ仕事です。どこかに店舗兼工房を構えて、チラシを配り、お客様からのお問い合わせを待つ。これが畳屋の商売スタイルだと思います。
しかしながら、立地条件が良くなければお店がどこにあるのかわからないし、適当にチラシを配ってもデザイン性や料金などに魅了が無ければ子供のお絵かきにされて捨てられてしまいます。
マーケティングとは、どこに店舗を構えたらいいのか、どこにどんなチラシを配布したらお客様に刺さるのか、これを考えるのがマーケティングだと私は思います。
最近では、「工事をしてもらう業者を何で探すのか」という問いに「ネットで探す」と答えた人が60%を超えたというデータがあります。
これは2018年ぐらいのデータなので、もしかしたらコロナの影響もあって70%を超える可能性も考えられます。
つまり畳屋のマーケティングはオフライン(店舗やチラシなど)とオンライン(インターネット)両方を頑張らないといけないことがわかると思います。
オフラインとオンラインどっちに重点を置くべきかについてはネットで業者を選ぶ方が60%以上いるわけですからオンラインに重点を置いた方がいいと私は思います。
とはいえ、インターネットを使ってどうやって集客すればいいのかわからないですよね。正直言って、何が正解か私もわからないです。
ただ一つ言えることは、成功している人の真似をすること、継続して続けること、写真撮影にこだわること。この三つはとても大切なことだと思います。
私もまだまだですが、みなさんと一緒に勉強していければいいなと考えています。
畳屋のマーケティングで重要な数式
公式の名前 | 数式 | 意味・活用法 |
---|---|---|
売上公式 | 売上 = 施工件数 × 平均単価 | 月ごとの売上を把握する基本公式 |
利益公式 | 利益 = 売上 − (材料費 + 人件費 + 固定費) | 経営の健全性を判断する公式 |
粗利(売上総利益) | 粗利 = 売上 − 材料費 | 直接かかる材料費を除いた利益 |
粗利率 | 粗利率 = 粗利 ÷ 売上 × 100% | 売上に対してどれだけ利益を確保できているか |
原価率 | 原価率 = 材料費 ÷ 売上 × 100% | 材料費が売上に占める割合。下げられると利益が増える |
新規顧客公式 | 新規顧客 = 問い合わせ数 × 成約率 | 問い合わせからどれだけ成約につながるか |
成約率(コンバージョンレート) | 成約率 = 成約件数 ÷ 問い合わせ数 × 100% | 集客からの成約効率を把握する指標 |
紹介顧客公式 | 紹介顧客 = 既存顧客 × 紹介率 | 地域密着ならではの口コミ・紹介効果を測る |
時間あたり利益公式 | 時間あたり利益 = 利益 ÷ 作業時間 | 作業効率を見える化し、改善の指標にする |
畳屋のマーケティングにおいて、覚えておいた方がいい数式をご紹介します。おそらく売上とか原価率とか粗利は誰もが知っていることで、普段も計算していると思いますが、ネット集客でとても大事になってくるのが成約率(コンバージョンレート)と呼ばれるものです。
私もアフィリエイトをやるまでこの言葉を知らなかったのですが、簡単に言うとWebページからどれだけお客様が買ってくれたか、お問い合わせしてくれたかの指標です。
一般的には2〜3%ぐらいと言われていますが、絶対にもっと高い方がいいです。つまり成約率を上げるためにWebサイトを繰り返しバージョンアップしていく必要がある。ということになります。
成約率を増やすウェブサイトの製作は専門外ですが、SEOやEEATについてはブログで学んできたので何かのお力になれると思います。畳屋限定ですが、ご連絡してもらえたら返信します。
売上を伸ばしている畳屋がやっている5つのこと
- キャッチコピーで目を引く広告
- 安心感を伝える信頼づくり
- ターゲットを絞った発信
- お得な特典をつける
- ネット・オンラインを活用する
キャッチコピーで目を引く広告
- 広告やチラシに強い言葉を使う(例:「10年持つ畳替え」「今なら無料引き取り」)
- 視覚的に大きく、印象に残る表現を
広告は見出しが大事だと言います。目に引く見出し1つでお客様からの受注も増えたと聞きました。そこで重要になるのがお客様を惹きつけるワードを大きな文字で書くこと。
お客様を惹きつけるワードを大きな文字で書くことと言われても、惹きつけるワードなんて、なかなか思いつかないですよね。
いくつか参考になる例を紹介します。
株式会社ファミリーマート「あなたと、コンビに、ファミリーマート」
セブンイレブン「セブンイレブン良い気分」
HONDA「The Power of Dreams」
SUBARU「Your story with」「あなたと車、どんな物語がありますか」
インテル株式会社「インテル入ってる?」
キューピー「愛は食卓にある」
コスモ石油株式会社「ココロも満タンにコスモ石油」
マスターカード「お金で買えない価値がある。買えるものはマスターカードで」
ナイキ「Just Do It」
こんなキャッチーなフレーズを生み出せたらお客様に与えるインパクトは大きいでしょう。でも実際はそう簡単なものではありません。
こういう独創的でキャッチーなものは、その世界に命をかけて仕事している人が生み出している言葉です。畳屋が片手間で生み出せたら、それはもう天才だと思います。
そこで本屋にある「ポップ」を参考にすると良いと思います。ホップとは商品を手に取ってもらえるように手書きで書いたフレーズの紙のことです。スーパーのお惣菜売り場に行けばよく見かけると思います。
もちろんスーパーのポップを参考にするのでもいいですが、一番おすすめなのは大きな本屋です。書店員は本好きな人が多く、文章力がやたらと高いので、かなりキャッチーなフレーズが並んでいます。
おすすめです。
安心感を伝える信頼づくり
- SNSで施工写真を公開
- 職人の自己紹介や作業場の動画
- お客様の声や口コミ、メディア掲載実績を載せる
マーケティングに関する有名な言葉で”誰もあなたのことなんか知らない”という名言があります。キャッチーな広告を出したからといって、お客様はあなたのことを知らないのだから注文するのに躊躇してしまいます。
まずは信頼をデザインしなければいけません。
例えば、自分のお店をよく知ってもらうために、SNSで発信したり、ブログ記事書いたり、自己紹介コーナーを作ったり、YouTubeに作業場の動画を投稿したり、地域で影響力を持つ人にシェアしてもらったり、寺社などの信頼度抜群の口コミを載せたり(許可が必要)、新聞やテレビなどのメディアに出演した場合は写真を広告に貼ったりするなど、努力が必要です。
ターゲットを絞った発信
- 年齢層(高齢者、子育て世代など)
- 地域(戸建て住宅が多い/マンションが多い)
- 住宅様式(和室が多い/洋風リフォーム済み)
まず、前提として万人受けする広告などは絶対に作れません。80代・60代・40代・20代どの世代に向けての広告かによって文字の大きさ、文字の濃さ、デザインも全て変わってきます。
広告のデザインだけでなく、ターゲットとなる商品も変わってきます。例えば、60代から上の世代の人は天然い草が圧倒的に人気で、中国産い草ではなく国産い草にこだわっている人が多い。
それなのに中国産い草の縁無し畳を勧める広告を出したら無駄金になります。
つまり売り上げを伸ばしているお店は、広告1つターゲットとなる客層を決めて一点集中的に出しているのです。
それは客層だけではありません。
地域別でも同様に言えます。
例えば、京都市左京区にある宝ヶ池周辺などは、比較的富裕層が住んでいる地域ですが、西洋建築の家が多く、和室も洋風和室というか縁無し畳が納品されているケースが多いです。
東京でも同じことが言えて、田園調布や世田谷区などは富裕層が多いですが、多くの家が西洋建築です。
何が言いたいかというと、そのような西洋建築の家に中国産い草の縁付き畳の広告を出したところで飛びつきは悪いということです。
地域毎にマーケティング調査を行い、どのような人が住んでいるのか、どのような家に住んでいるのか、把握しておく必要があります。
お得な特典をつける
- 「セット割」「早割」「紹介特典」
- 小物(ミニ畳、座布団カバー)をプレゼント
畳屋で特典というと、ミニ畳やネーム入りのタオルが主流です。それをもらって喜ぶ人も確かにいますが、違う特典を付けてみるのも1つの方法ではないかと思います。
例えば、地域の伝統工芸品や自分の書いた本、季節の掛け軸など他店には無いオリジナルな特典になって印象に残ると思います。
(実は、私は自分で作った畳縁のカードケースをプレゼントしていた時期があります。とても喜ばれましたが、こだわり出してしまいプレゼントとしては時間がかかるようになってしまい、やめてしまいましたが、お客様からは大変好評でした。)
とはいえ、地域の伝統工芸品や季節の掛け軸などはプレゼントするには予算が掛かりますよね。あまり高いものを粗品にはしたくない気持ちはわかります。それなら、相互共助の精神で伝統工芸品のメーカーや掛け軸などとジョイント出来たらいいと思います。
私も何度か他業種の方と一緒にやったことがありましたが、それなりに成果が出ました。注意点としては長い期間やらないことですね。
「自分で書いた本」に関しては、畳の歴史や畳のメンテンスの仕方、自分の畳職人としての歩みなどを書くのがおすすめです。私はブログで書いたものをそのまま紙にしていますが、ちゃんとするならAmazonで本を出版するサービスがあるので、そちらを使うと良いでしょう。
話は変わりますが、皆さんはテレフォンショッピングを見ますか?
私はテレフォンショッピングが好きでよく見るのですが、商品に必ずついているのが、次のような特典です。
「今ならフライパンと包丁をセットでお付けして〜円」「今なら下取り1万円引きです」「今ならネックレスにイヤリングをお付けして〜円」
テレフォンショッピングではもうお馴染みのフレーズですよね。でも「今なら」「今だけ」「セットでお付けして」はマジックワードで効果はとても大きいです。
またテレフォンショッピングに限らず、クーポンや次回割引など購買意欲をそそるような特典は、とても効果的です。ただ、畳は次回割引まで期間が長過ぎるので他に使える割引・クーポン(楽天・Amazon・TSUTAYAなど)にした方が喜ばれます。
ネット・オンラインを活用する
- ホームページを持つ
- ブログ・SNSを更新する
売り上げを伸ばしている畳屋とそうでない畳屋の差はネットの活用にあると考えられます。先述どおり、お客様はネットで調べて畳屋を探している人が半分以上にのぼっています。
つまり、ネットで負けることは大きな痛手になっているのです。
では、ネットをどう活用するのか。まずはホームページがないと何もできません。ホームページ(お問い合わせページは絶対必須)の役割は全てを繋ぐ柱となること。そこから枝(導線)を作る作業に入ります。(ホームページはペライチ などを利用すれば無料で作れます)
導線はブログでも、SNS(Xやインスタグラム、YouTubeなど)でもLP(ランディングページ)でも構いません。全て無料で始められるので、全部やるのがおすすめです(ブログなどは有料にすることでSEOが上がるものもあります)。
ここで大事なのは、コンテンツの質です。お客様が見て為になるかどうか、喜んでもらえるかどうかです。適当に発信しても効果は薄く、情報の海に埋れてしまいます。
もう一つ大事なのが、EEATを意識することです。
EEATとは「Experience(経験)」「Expertise(専門性)」「Authoritativeness(権威性)」「Trustworthiness(信頼性)」の頭文字を取った言葉で、Googleが品質を評価する為の指標でもあります。
例えば、ある野球教室を開いている方がいたとして、その方は100人以上の子供に野球のバッティングを教えていたとします。その方がブログを開設し、ブログでもバッティング理論を書いたとする。その同時期に大谷翔平選手がバッティング理論をブログで書いたとしたら、どっちがSEOで上に来ると思います?
答えは簡単で、大谷翔平選手が書いたバッティング理論が上に来るのです。しかし、現実では大谷翔平選手のバッティング理論を小学生に教えたところで真似できないし、大谷翔平選手のように打てるようになるか怪しいですよね(野球をやっていた自分の意見を言えば、ほぼ無理だと思う)。
むしろ、100人野球教室で子供達を指導してきた先生の方が打てるようになるかもしれない。でもGoogleはEEATを大切にしています。
それほどまでに「自分が何者であるのか」がネットではものすごく大事なのです。だからネットの中で活躍している人は経歴を盛ったり、炎上商法を行うのです。
しかし、畳屋である皆さんは既に経歴と信頼性、実績があります。例えば、「私は京都で修業した畳職人」「京都畳競技会で優勝した」「国家資格一級畳製作技能士」は権威性を高めますし、お客様からのクチコミや施工事例(どの物件をどんな施工をしたのか)は信頼性と実績に直結します。
炎上商法なんて考えなくてもやってきたこと、やっていること、事実を淡々と書けばGoogleは評価してくれるのです。あと、それを継続することも忘れずに。
最後にもうひとつだけ。AIが進歩しましたね。日本語を簡単に英語に訳すことができるようになった時代で、日本語だけの発信は勿体無いです。
私も英語でブログ記事を書いていますが、日本とは比べ物にならないアクセス数になります。これからは畳も海外に売る時代です。英語での発信も絶対にやるべきです。
最後に|マーケティングをするということは、新しいことに挑戦すること
マーケティングをするということは、新しいことに挑戦しているということだと私は思います。最初はわからないことだらけだし、ミスもたくさんすると思います。
私のマーケティングの始まりはカレンダーの裏にできる事を100個書いたことから始まりました。私は全て試して、効果が薄い事を排除していく。そのような戦略でマーケティングを行ってきました。
それは遠回りだし、失敗ばかりです。でも、失敗したからこそ何が一番良かったのか、皆さんにお伝えすることができる。
私は畳業界が廃れた業界だと言われるのがムカつくんです。見返してやりたい。その為に自分の知っている事を共有し、業界の発展に少しでも貢献できればいいなと思っています。
読んでいただきありがとうございました。