なぜ私はこの農家さんのい草を選ぶのか|熊本県八代市・山本英義さんの畳表「汐風」へのこだわり
この記事の監修・執筆者
一級畳製作技能士 樋口裕介
樋口 裕介 (ひぐち・ゆうすけ)
国家資格 一級畳製作技能士 樋口畳商店 代表

京都市の黄綬褒章受章店「沢辺畳店株式会社」にて長年修業を積み、東京都江戸川区で独立。 京都畳競技会にて最高賞の「京都府知事賞」を受賞。神社仏閣や茶室、屋形船から一般住宅まで、1ミリの隙間も許さない「京都仕込み」の技術で江戸川区を中心に活動中。

  • 📺 メディア出演:TOKYO MX「バラいろダンディ」畳職人として出演
  • 🏫 地域活動:練馬工業高校にて畳の文化・技術に関する講演会講師を担当
一級畳製作技能士 資格証
国家資格証
京都府知事賞 優勝トロフィー
知事賞受賞
講演会の様子
講演実績

なぜ私はこの農家さんのい草を選ぶのか

熊本県八代市・山本英義さんの畳表「汐風」


はじめに

みなさまこんにちは。樋口畳商店の樋口です。

畳の仕上がりは、職人の技術で決まる。
そう思われる方も多いかもしれません。

しかし実際には、もう一つ欠かせない要素があります。

それが、畳の材料である「い草」、そして畳表です。

私は独立してから現在に至るまで、ある農家さんの畳表を使い続けています。
熊本県八代市でい草を育て、畳表を織っている山本英義さんです。

なぜ数ある畳表の中から、この方のものを選び続けているのか。
今日はその理由を、職人としての視点と実体験をもとにお話ししたいと思います。


畳表の美しさを決める「六本芯」という構造

山本さんの畳表「汐風」には、大きな特徴があります。
それは、縦糸の構造です。

一般的な畳表は、綿1本または2本。
高級品でも麻2本と綿2本の組み合わせが主流です。

それに対して「汐風」は、麻2本・綿4本の合計6本の糸で織られています。

この構造によって、畳の目、いわゆる山と谷の凹凸がはっきりと現れます。
光が当たったときの陰影が美しく、い草特有の艶が際立ちます。

実際に納品した際、お客様から
「畳ってこんなに綺麗だったんですね」
と言っていただくことが多いのは、この構造によるものだと感じています。


なぜ色が美しいのか|い草の“長さ”が生む違い

山本英義さんの六本芯で作ったお茶室

もう一つ、仕上がりを大きく左右する要素があります。
それはい草の長さです。

い草は、先端と根元で色が異なります。
短いい草を使った畳表では、どうしても畳縁付近の色が黄色くなりがちです。

しかし山本さんのい草は長く、質の良い部分を均一に使うことができます。
そのため、畳の端まで色のムラが少なく、全体として非常に整った印象になります。

この違いは、完成直後だけでなく、時間が経った後にもはっきりと現れます。


職人にとっての価値|「伸びる畳表」という強み

職人としてもう一つ強く感じているのが、施工時の扱いやすさです。

一般的に、高級な畳表はしっかりしている反面、伸びにくいという特徴があります。
そのため強い力と高い技術が求められ、わずかなズレが仕上がりに影響します。

一方で、山本さんの畳表は厚みがありながらも適度に伸びます。
この“しなやかさ”があることで、畳床に対して無理なく張りをかけることができ、結果として弛みにくい仕上がりになります。

特に薄い畳や折りたたみ畳など、構造的に反りやすい製品においては、この特性が大きな強みになります。


ずっと会いたかった農家さんとの出会い

私は長年この畳表を使い続けてきましたが、山本さんと直接お会いする機会がありませんでした。

そんな中、京都で修業していた頃の尊敬する大先輩である佐賀県の野中さんが
「会いたい農家さんいる?」
と声をかけてくださいました。

迷わず、山本英義さんのお名前を挙げました。

ご縁をつないでいただき、実際に熊本でお会いすることができました。


現場で見た“本物の仕事”

訪れたとき、山本さんはちょうど畳表を織っている最中でした。

実際に六本芯の畳表が織られていく様子を目の前で見せていただき、
さらに、ほつれや「アカイ」と呼ばれる変色部分を丁寧に取り除く作業も拝見しました。

その一つ一つの工程が、仕上がりの美しさにつながっていることを実感しました。


お客様の声を届けました

これまでお客様からいただいた声をお伝えしました。

「とても綺麗で驚いた」
「畳の印象が変わった」

そうお話しすると、山本さんはとても嬉しそうにされていました。

作り手の仕事が、そのままお客様の喜びにつながっている。
その瞬間に立ち会えたことは、私にとって大きな経験でした。


世界へ広がる畳表

ギリシャに送った山本さんの六本芯の畳

現在、この畳表は日本国内だけでなく、海外でも使われています。

ギリシャ、メキシコ、オランダ、オーストラリア。

異なる気候や住環境の中でも、この畳表はしっかりとその価値を発揮しています。

言葉や文化が違っても、「良いもの」は伝わる。
私はそう実感しています。


結び|素材と職人とお客様をつなぐ仕事

畳は、農家さんが育てたい草を、職人が形にし、お客様が使うことで完成します。

どれか一つ欠けても成立しません。

山本英義さんという作り手、野中さんが繋げてくれたご縁、そして選んでくださるお客様。
そのすべてに支えられて、今の仕事があります。

これからも一つ一つの仕事に向き合いながら、
「この畳にしてよかった」と思っていただける仕上がりを届けていきたいと思います。

山本さんの畳表は、一般的な畳表と比べると価格は上がります。

しかし、実際に施工させていただく中で感じるのは、
「見た目の美しさ」「仕上がりの安定性」「長く使える安心感」まで含めると、
決して高いものではないということです。

ご予算や用途に応じてご提案できますので、
ご興味のある方はお気軽にご相談ください。

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