畳は「見えない仕事」です|京都修業で学んだ職人の考え方
この記事の監修・執筆者
一級畳製作技能士 樋口裕介
樋口 裕介 (ひぐち・ゆうすけ)
国家資格 一級畳製作技能士 樋口畳商店 代表

京都市の黄綬褒章受章店「沢辺畳店株式会社」にて長年修業を積み、東京都江戸川区で独立。 京都畳競技会にて最高賞の「京都府知事賞」を受賞。神社仏閣や茶室、屋形船から一般住宅まで、1ミリの隙間も許さない「京都仕込み」の技術で江戸川区を中心に活動中。

  • 📺 メディア出演:TOKYO MX「バラいろダンディ」畳職人として出演
  • 🏫 地域活動:練馬工業高校にて畳の文化・技術に関する講演会講師を担当
一級畳製作技能士 資格証
国家資格証
京都府知事賞 優勝トロフィー
知事賞受賞
講演会の様子
講演実績

畳の仕事は、完成するとほとんど見えなくなります。

畳を敷き込めば、裏側も見えない。
中の仕事も見えない。

お客様からすると、

👉 「どんな施工をしたのか」

正直わからない世界です。

例えば、見えない部分をタッカーで適当に留めても、普通は気づきません。

でも、畳は毎日人が踏む敷物です。

  • 子供が走り回る
  • ペットが暴れる
  • 湿気が溜まる
  • 年数が経つ

そうすると、見えない部分の仕事が少しずつ表に出てきます。

タッカーの芯は湿気で錆びることもあります。

糸の締まりが甘ければ、畳表は緩んできます。

だからこそ、京都では、

👉 「見えない部分にどれだけ技術を使うか

を徹底的に教わりました。

私は京都修業時代、

👉 「畳は見えない仕事」

なのだと学びました。


京都で最初に学んだのは「寸法」の重要性でした

畳において最も重要なのは寸法です。

どんなに綺麗に縫っても、寸法が狂えば美しい畳にはなりません。

京都では、

  • 割本法
  • 十字法

という採寸方法を学びました。


割本法とは

割本法では、まず和室の「ドウツキ」を測り、対角線を測定します。

すると、「シミズ」と呼ばれる歪みが見えてきます。

古い和室は、どんなに上手な大工さんが作っていても少しずつ歪んできます。

  • 経年変化
  • 地震
  • 建物のクセ

理由は様々です。

その歪みを消すために行う計算を、

👉 「割り付け」

と呼びます。

畳は単純に長方形を作れば良いわけではありません。

部屋の歪みに合わせて、寸法を調整しながら作る必要があります。


十字法について

十字法とは、部屋の中心に90度を作り、そこから寸法を割り出していく方法です。

現在ではレーザー機器を使用する畳屋さんも増えており、割本法より早く測れると言われています。

ただ、私が修業した京都の沢辺畳店では、割本法を使うことがほとんどでした。

なので、私は今でも糸を張って部屋を見ています。


茶室ではさらに特殊な採寸があります

お茶室では、

👉 「カケシミズ」

という方法があります。

これは通常のように下前で歪みを取るのではなく、畳の丈で歪みを消す方法です。

かなり高度な計算方法で、失敗のリスクも高い採寸方法です。

京都では、こうした細かな技術が今でも残っています。


畳は「角」で美しさが決まる

京都では特に、

👉 畳の隅

を非常に重要視します。

畳の角が丸いと、敷き込んだ時に全体がだらしなく見えるからです。

昔の京都では、「かまち板」と呼ばれる板を縫い付け、角が丸くならないように施工していました。

現在ではプラスチック素材を使うことも多いですが、京都では築100年を超える建物も珍しくありません。

そのため、私は京都修業時代に板入れの仕事を数多く経験しました。


「い筋」と「目筋」

畳には、

  • い筋
  • 目筋

があります。

これが曲がっていると、本当に不細工に見えます。

特に茶室では、目筋が曲がっていると、お茶の先生が仕事をしにくくなります。

畳は、

👉 「全部が揃っている」

ことが美しさになります。

だから、畳表を細かく調整しながら施工していきます。


畳は「下がる」ことが前提

畳は人が踏んで使うものです。

つまり、

👉 「下がる」

ことが前提です。

特に入口など、人がよく歩く場所は傷みやすい。

表替えの際、ただ修理するだけでは、またすぐ沈んでしまう可能性があります。

そのため京都では、

  • イガラ
  • 畳表

などを多めに入れて修理します。

ただ、そのままだと踏んだ時に違和感があります。

少し「もっこり」した状態になるのです。

そこで最後にハンマーで叩き、ムラを潰しながら調整していきます。

畳は単純に平らに作れば良いわけではありません。

踏まれて下がる未来まで考えて作る必要があります。


京畳とは「作り方」のこと

私はよく、

👉 「京畳って何ですか?」

と聞かれます。

京畳とは、サイズのことではありません。

京都の考え方と施工方法で作られた畳のことです。

例えば、

  • 美しい紋合わせ
  • 戻し縫い
  • タスキ掛け止め
  • 板入れ
  • 藁を使った厚み調整
  • 返し

など。

さらに、

  • 畳床を落とす角度
  • 平刺しの角度
  • 糸の締め方
  • 畳表のかがり

など、細かな技術があります。

京都では、こうした「見えない部分」を徹底的に作り込みます。

現在、「京畳」という名称は京都畳組合員しか使うことができません。

ですが私は今でも、京都で学んだ考え方を土台に畳を作っています。


京都畳競技会とは

京都畳競技会では、

👉 「どれだけ美しく、正確に作れるか」

を競います。

畳は完成すると隠れてしまう仕事です。

だからこそ、

  • 寸法
  • 糸の締まり
  • 目筋
  • 畳縁

そうした細かな部分が徹底的に見られます。

京都では、

👉 「見えない部分にどこまでこだわれるか」

それが職人の技術だと教わりました。


最後に

畳は、敷き込んでしまえば見えなくなる仕事です。

だからこそ、

👉 手を抜こうと思えばいくらでも抜ける

世界でもあります。

でも私は、

👉 「見えない部分こそ大切」

だと思っています。

それは京都で学んだ技術であり、考え方です。

お客様から見えない部分に、どれだけこだわれるか。

これからも、その考えを大切にしながら畳を作っていきたいと思っています。

読んでいただきありがとうございました。

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