
京都市にある黄綬褒章受章、現代の名工に選ばれている店「沢辺畳店株式会社」にて長年修業を積み、東京都江戸川区で独立。 京都畳競技会にて最高賞の「京都府知事賞」を受賞。神社仏閣や茶室、屋形船から一般住宅まで、1ミリの隙間も許さない「京都仕込み」の技術で江戸川区を中心に活動中。
- 📺 メディア出演:TOKYO MX「バラいろダンディ」畳職人として出演
- 🏫 地域活動:練馬工業高校にて畳の文化・技術に関する講演会講師を担当
お盆になると、仏壇の前や精霊棚(盆棚)に敷かれている「ござ」を見たことはないでしょうか。
一般的に**「盆ござ」と呼ばれるものですが、仏事に使われるござには「御前ござ(ごぜんござ)」**と呼ばれるものもあります。
「盆ござと御前ござは何が違うの?」
「盆ござはどこに敷けばいい?」
「普通の畳表と同じ、い草で作られているの?」
「昔ながらの盆ござは、どこで買える?」
こうした疑問を持つ方も多いと思います。
私は東京都江戸川区で畳店を営む、一級畳製作技能士です。
畳屋の立場から最初にお伝えしておきたいのは、昔ながらの盆ござには、一般的な畳表に使われる「い草」ではなく、「マコモ(真菰)」を使ったものがあるということです。
そして現在、このマコモは畳材料として簡単に仕入れられるものではなくなってきています。
この記事では、盆ござと御前ござの違いから、使い方、素材、歴史、購入するときの注意点、そして現在の畳業界におけるマコモの流通事情まで、畳職人の視点から詳しく解説します。
盆ござとは?
盆ござとは、主にお盆の際に精霊棚(盆棚)などに敷くござのことです。
お盆は、ご先祖様を自宅へお迎えし、供養する日本の伝統行事です。
地域や宗派、家庭によって飾り方は異なりますが、精霊棚を設け、位牌や供物、精霊馬などを飾る風習があります。
その精霊棚に敷かれてきたものの一つが盆ござです。
単なる日常生活のための敷物ではなく、
「ご先祖様をお迎えする場所を整えるための敷物」
と考えると、盆ござの役割が分かりやすいでしょう。
盆ござには「マコモ(真菰)」が使われる
畳屋として、特に知っていただきたいのが素材の違いです。
昔ながらの盆ござには、**マコモ(真菰)**を編んだものがあります。
マコモは、水辺や湿地などに生育するイネ科の多年草です。
見た目だけでは一般的なござと似ているように感じるかもしれませんが、通常の畳表に使われる「い草」とは別の植物です。
簡単に整理すると、
一般的な畳表 → い草
昔ながらの盆ござ → マコモ(真菰)を使ったものがある
という違いがあります。
そのため、昔ながらの盆ござを探している場合は、単に「ござ」と書かれている商品を購入するのではなく、商品説明で素材を確認することが大切です。
なぜお盆にマコモを使うの?
マコモは、日本で古くから生活に利用されてきた植物です。
敷物などの材料として使われてきただけでなく、神事などとの関わりも知られています。
お盆でも、地域によってはマコモを編んだござを精霊棚に敷き、ご先祖様を迎えるための場所を整えてきました。
マコモと仏教に関しては、釈迦とマコモを結びつける伝承なども語られています。
ただし、こうした話には伝承として受け継がれているものや諸説あるものが含まれます。
「この出来事があったから盆ござが始まった」と一つの由来に断定するよりも、古くから日本人の生活や信仰に関わってきたマコモと、祖先を迎えるお盆の文化が重なりながら、盆ござの習慣が受け継がれてきたと捉える方がよいでしょう。
また、お盆の風習は全国共通ではありません。
「お盆には必ずマコモのござを敷かなければならない」わけではないことにも注意してください。
地域や宗派、家庭で受け継がれてきた方法がある場合は、その習慣を大切にしてください。
御前ござとは?
盆ござと一緒によく検索されるのが、**御前ござ(ごぜんござ)**です。
御前ござとは一般的に、仏壇の前などに敷く仏事用のござ・敷物を指します。
仏壇の前に敷き、その上に仏前用の座布団を置いたり、読経や礼拝をする場所として使ったりします。
商品によっては、金襴や紋様などを取り入れた華やかな縁が付けられているものもあります。
盆ござがお盆という行事と強く結びついた敷物であるのに対して、御前ござはお盆だけでなく、お彼岸、法事、日常のお参りなどにも使用される仏前の敷物と考えると分かりやすいでしょう。
盆ござと御前ござの違い
両者の違いを整理すると、次のようになります。
| 盆ござ(真菰ござ) | 御前ござ(仏前ござ) | |
|---|---|---|
| 主な用途 | お盆の精霊棚など | 仏壇の前・仏間など |
| 使用時期 | 主にお盆 | 通年・お盆・法事など |
| 素材 | マコモなど | い草など商品により異なる |
| 敷く場所 | 精霊棚・盆棚など | 仏壇の前など |
| 主な役割 | ご先祖様を迎える場所を整える | 仏前で礼拝する場所を整える |
| 見た目 | 比較的素朴なものが多い | 装飾性の高い縁を使ったものもある |
一言で表現するなら、
盆ござ=ご先祖様を「迎える場所」を整える敷物
御前ござ=仏様の前で「座る場所」を整える敷物
という違いです。
ただし、「仏前ござ」「仏壇ござ」「御前ござ」など、販売店や地域によって呼び方が異なることがあります。
名前だけで判断せず、用途・素材・寸法を確認して選ぶことをおすすめします。
盆ござはどこに、どうやって敷く?
一般的には、お盆の時期に設ける精霊棚(盆棚)に敷いて使用します。
その上に位牌や供物などを置き、地域によってはキュウリやナスで作った精霊馬などを飾ります。
ただし、
「どちら向きに敷くのか」
「どの範囲まで敷くのか」
「何を上に置くのか」
といった細かな飾り方には、地域や宗派による違いがあります。
その家で代々受け継がれている方法があれば、まずはその習慣を大切にしてください。
分からない場合は、菩提寺や地域の仏具店などに確認すると安心です。
御前ござはどのように使う?
御前ござは、基本的には仏壇の前に敷いて使用します。
その上に仏前用の座布団を置くこともあります。
日常的に敷いておく家庭もあれば、お盆、お彼岸、法事などの際だけ使用する家庭もあります。
購入する際は、仏壇の大きさだけでなく、
- 仏壇前のスペース
- 座布団を置くか
- 仏間や畳の寸法
- ござをどこまで見せたいか
なども考えてサイズを決めると、納まりがきれいになります。
盆ござの歴史――マコモと日本のお盆文化
日本のお盆は、仏教の**盂蘭盆会(うらぼんえ)**と、日本に古くから存在した祖先を迎える習俗などが重なりながら形成されてきたと考えられています。
現在では「お盆」と聞けば、盆棚、迎え火・送り火、精霊馬などを思い浮かべますが、全国で最初から同じ形だったわけではありません。
地域ごとの文化や生活と結びつきながら、現在のお盆の形へと発展してきました。
その中で、ご先祖様を迎えるために設けるのが精霊棚です。
位牌や供物を並べ、その場所を整えるためにマコモで編んだござを敷く地域があります。
なぜ「一枚のござ」を敷くのか
ここは、畳職人として非常に興味深い部分です。
現在では「床に何かを敷く」というと、フローリングを傷から守ったり、座り心地を良くしたりする実用的な目的を考えるかもしれません。
しかし、日本の敷物文化にはそれだけではない意味があります。
古い時代の畳や筵は、現在の和室のように部屋全体へ敷き詰められていたわけではありません。
必要な場所に必要な分だけ敷かれ、敷物によって「ここは特別な場所である」と示す役割もありました。
お盆も同じように考えると、とても分かりやすくなります。
普段は何もない場所に精霊棚を設ける。
そこへござを敷く。
位牌や供物を置く。
そうすることで、日常の空間の中に**「ご先祖様をお迎えする特別な場所」**を作るわけです。
盆ござは単なる敷物ではなく、その場所を整える一枚でもあるのです。
御前ござの歴史――日本人の「座」の文化
御前ござについて考えるうえで重要なのが、日本の敷物と「座」の文化です。
現在では畳を部屋全体に敷き詰めた和室が一般的ですが、古い時代の畳は必要な場所へ置いて使用するものでした。
人が座ったり、寝たりする場所へ敷く。
さらに、身分や立場などによって使用する敷物や縁にも違いがありました。
つまり、敷物には単に座りやすくするだけではなく、
「ここは誰のための場所なのか」
を表す意味もあったのです。
こうした日本の敷物文化の延長線上に、仏前の敷物である御前ござを見ることができます。
なぜ御前ござには立派な縁が付いているの?
御前ござを見ると、一般的なござより華やかな縁が付いているものがあります。
金襴や紋様を使ったものもあり、仏壇の前に敷くと非常に格式のある印象になります。
これは日本の畳文化とも共通する部分があります。
歴史的に日本では、敷物の素材や縁、紋様などによって格式や場所の性格を表現してきました。
現在でも寺院などでは、一般住宅ではほとんど使われない紋縁を使用した畳を見ることがあります。
御前ござの華やかな縁も、仏前という特別な場所にふさわしい敷物として発展してきたものと捉えることができます。
盆ござ・御前ござはどこで買える?
現在、購入方法は大きく3つあります。
1.仏具店
盆ござや御前ござを取り扱っている仏具店があります。実店舗であれば、大きさや質感を実際に確認できることがメリットです。
2.インターネット通販
「盆ござ」「真菰ござ」「マコモござ」「御前ござ」「仏前ござ」などで検索すると、現在でもさまざまな既製品が販売されています。
一般的なサイズで問題なければ、最も購入しやすい方法でしょう。
3.畳店へ相談する
昔は畳店が材料を仕入れ、希望する寸法に合わせて製作することもありました。
既製品では合わない仏間や、昔使っていたものと同じ寸法にしたい場合などには、オーダーメイドのメリットがあります。
ただし、ここには現在ならではの問題があります。
【畳職人の現場から】マコモが手に入りにくくなっています
ここからは、インターネットで盆ござについて調べるだけでは、なかなか分からない現在の畳業界の話です。
以前であれば、私たち畳店は材料屋からマコモを仕入れ、お客様の希望する寸法に合わせて盆ござを製作することができました。
ところが近年、状況が変わってきました。
マコモを使用する機会そのものが少なくなり、畳材料としてマコモを仕入れることが難しくなっています。
需要が減れば、扱う材料店も減ります。
材料を扱う業者が減れば、それを加工する職人も減っていきます。
盆ござ自体は小さな製品です。
しかし、その一枚の背景では、日本の暮らしの変化 → 需要の減少 → 材料流通の縮小 → 製作できる職人や店の減少ということが起きています。
畳屋であれば、いつでも昔と同じ材料を仕入れられる。
残念ながら、そうとは限らない時代になってきました。
樋口畳商店でもマコモの仕入れ先を探しています
樋口畳商店でも、昔ながらのマコモを使用した盆ござを再び製作できるよう、現在、材料の仕入れ先を探しています。
以前のように一般的な畳材料として簡単に注文できる状況ではないため、来年のお盆までに安定して材料を確保できるかは、現時点では分かりません。
そのため、
「仏間に合わせた寸法で作りたい」
「昔使っていた盆ござと同じ大きさにしたい」
「マコモを使った盆ござを畳職人に仕立ててもらいたい」
といったオーダーメイドをご希望のお客様には、申し訳ありませんが、現時点ですぐに製作できるとはお約束できません。
材料を確保し、製作できる環境が整いましたら、改めて当店でもご案内したいと考えています。
盆ござを購入するときに確認したい4つのポイント
購入するときは「盆ござ」という商品名だけで判断せず、次の4点を確認してください。
① 素材を確認する
昔ながらのマコモを使用したものなのか、い草なのか、その他の素材なのかを商品説明で確認します。
② 寸法を測る
使用する精霊棚や場所を事前に測っておきましょう。昔の盆ござを買い替える場合は、捨てる前に古いござの縦・横寸法を測っておくことをおすすめします。
③ 用途を確認する
「盆ござ」「真菰ござ」「御前ござ」「仏前ござ」など、似た名称の商品があります。名称だけではなく、どこに敷くことを想定した商品なのか確認してください。
④ 地域・宗派・家庭の習慣を確認する
お盆の飾り方は全国共通ではありません。迷った場合には、家族、親族、菩提寺などへ確認するのが確実です。
よくある質問
Q. 盆ござと御前ござは同じものですか?
一般的には用途が異なります。
盆ござは主にお盆の精霊棚などに使用し、御前ござは仏壇の前などに敷く仏事用の敷物です。
ただし、地域や販売店によって名称が異なる場合があります。
Q. 盆ござは必ずマコモでなければいけませんか?
必ずしもそうではありません。
地域、宗派、家庭によってお盆の習慣は異なります。昔ながらの盆ござにはマコモを使用したものがありますが、「お盆には必ずマコモを敷かなければならない」という全国共通の決まりではありません。
Q. 盆ござは毎年買い替えるものですか?
これも地域や家庭の習慣によります。
保管して繰り返し使用する家庭もありますので、その家で受け継がれている方法があれば、それを確認してください。
Q. 普通のい草ござを盆ござとして使えますか?
お盆のしきたりは地域によって異なるため、一概には言えません。
昔ながらのマコモござを使用する地域・家庭もあります。伝統的な形を大切にしたい場合には、菩提寺や地域の習慣を確認するとよいでしょう。
Q. 畳屋なら盆ござを作ってもらえますか?
対応できる畳店もありますが、現在はマコモ自体の流通が少なくなっているため、すべての畳店で製作できるわけではありません。
希望する場合は、材料の有無も含めて事前に問い合わせることをおすすめします。
昔は当たり前に手に入った材料が、少しずつ姿を消している
畳屋をしていると、住宅から畳が減っていることだけでなく、日本の伝統的な暮らしを支えてきた材料そのものが、少しずつ手に入りにくくなっていることを感じます。
マコモもその一つです。
以前なら材料屋へ注文し、畳屋が必要な寸法に加工して、お客様へお渡しすることができました。
しかし、
使う人が減る。
材料を作る人が減る。
流通させる人が減る。
加工できる職人も減る。
そうして、いざ「昔と同じものが欲しい」と思ったときには、作ること自体が難しくなってしまいます。
盆ござは、一年のうち数日しか使わない小さな敷物かもしれません。
しかし、
ご先祖様を迎えるために敷物を用意し、場所を整える。
そこには、日本人が長い時間をかけて受け継いできた暮らしの文化があります。
私たち畳職人にとっても、できることなら残していきたい仕事の一つです。
まとめ|盆ござと御前ござには、それぞれ違った役割がある
盆ござは、主にお盆の精霊棚などに使用する敷物です。
昔ながらのものには、一般的な畳表に使われる「い草」とは異なる、**マコモ(真菰)**を使用したものがあります。
一方、御前ござは主に仏壇の前に敷くもので、お盆だけでなく、お彼岸、法事、日常のお参りなどにも使用されます。
簡単に整理すると、
盆ござ=ご先祖様を迎える場所を整える敷物
御前ござ=仏前で座る場所を整える敷物
です。
現在では、どちらも仏具店やインターネット通販などで既製品を購入できます。
しかし、昔ながらのマコモを使ったオーダーメイドの盆ござについては、材料自体の流通が少なくなっており、畳屋でも簡単に製作できない状況になりつつあります。
樋口畳商店でも、再び製作できるようマコモの仕入れ先を探しています。
小さな一枚のござですが、その背景には、植物を育てる人、材料を流通させる人、それを加工する職人、そしてご先祖様を迎えてきた日本人の暮らしがあります。
「大切な場所だから、一枚の敷物を用意する。」
それが、盆ござと御前ござに共通している日本の敷物文化なのかもしれません。
盆ござを目にしたとき、その一枚がなぜそこに敷かれているのか。
使われている植物や、その背景にある文化にも少し目を向けていただければ、畳職人として嬉しく思います。
