
京都市にある黄綬褒章受章、現代の名工に選ばれている店「沢辺畳店株式会社」にて長年修業を積み、東京都江戸川区で独立。 京都畳競技会にて最高賞の「京都府知事賞」を受賞。神社仏閣や茶室、屋形船から一般住宅まで、1ミリの隙間も許さない「京都仕込み」の技術で江戸川区を中心に活動中。
- 📺 メディア出演:TOKYO MX「バラいろダンディ」畳職人として出演
- 🏫 地域活動:練馬工業高校にて畳の文化・技術に関する講演会講師を担当
みなさまこんにちは。 江戸川区の樋口畳商店・代表の樋口裕介です。
「新築時にこだわって和室を作ったけれど、結局ほとんど使わなくなってしまった」
畳職人として多くのご自宅に伺っていると、施主様からこのような本音のお話を聞くことが少なくありません。日本人として「一部屋は和室が欲しい」と願うのは自然なことですが、実際に暮らし始めてから後悔してしまうケースがあるのも事実です。
では、和室を作って後悔する人には、どのような共通点があるのでしょうか。 現役の畳職人として、実際の現場で感じることを正直にお話しさせていただきます。
共通点①:用途を決めないまま「とりあえず」で作ってしまう
最も多い後悔の理由は、部屋の使い道を具体的にイメージしないまま作ってしまうことです。
- 「なんとなく落ち着くから」という理由で欲しかった
- 注文住宅を建てる時にプランにあったので、とりあえず作った
- 「たまに来るゲストの来客用」として考えていた
このような動機で作られた和室は、ライフスタイルが洋式化している現代において、高確率で「ほとんど使わない部屋」になってしまいます。
そして、その結果として物置部屋になってしまうケースが非常に多いのです。 荷物を置いたまま換気もしなくなると、室内には湿気がこもり、カビやダニが発生する原因になります。特に一階の和室や、日当たりの悪い北側のお部屋では注意が必要です。
実際、私たちが畳替えのご依頼をいただいてお伺いすると、「ここ数年間、ほとんど人が入っていなかった和室」の畳が一番傷んでいることも珍しくありません。和室は人が居て、空気が動くことでその快適さを保つ部屋なのです。
共通点②:和室は「自然素材の空間」であるという認識が薄い
現代の洋室(フローリングやビニール壁紙)は、汚れにくく傷つきにくい耐久性のある建材が主流です。しかし、伝統的な和室はそれとは全く異なります。
和室を構成するものは、すべてデリケートな「自然素材」です。
- 畳はい草(植物)
- 障子は紙
- 襖(ふすま)は木と紙
- 土壁は自然の土
そのため、物を強くぶつけたり乱暴に扱ったりすれば、傷が付いたり破れたりするのは当然のことです。小さなお子様やペットがいるご家庭では、「すぐに傷が付く」「子どもが襖を破ってしまった」というお悩みを本当によく耳にします。
しかし、私はそれが和室の悪いところだとは決して思っていません。
和室は単に「壊れやすい部屋」なのではなく、「物を丁寧に扱う文化が残っている部屋」なのだと、私は捉えています。
私自身、幼少期は和室のある家で育ちました。襖を破れば祖父に厳しく怒られましたし、畳の上で暴れれば注意されました。当時は怒られてばかりでしたが、今振り返ると、それは「家や道具を大切に扱う感覚」を肌で学ぶ、とても貴重な時間だったのだと感じています。
和室は「何畳にするか」より「どう使うか」が大切です
和室は、ただ作っただけでは生活を豊かにしてくれません。大切なのは、そこで過ごす具体的なイメージがあるかどうかです。
- 家族みんなで川の字になって寝る部屋にするのか
- 小さな子どもを安全にハイハイさせ、遊ばせる部屋にするのか
- 大人がちょっとゴロゴロとお昼寝をするスペースにするのか
- アイロン掛けや、趣味に没頭するための空間にするのか
こうした「過ごし方のイメージ」が明確にあれば、和室の満足度は大きく跳ね上がります。
最近の住宅市場では「和室はいらない」という声が増えており、それは現代の合理的な暮らしに合わない部分がある以上、仕方のないことかもしれません。
しかし、青畳のみずみずしい香りや、スリッパを脱いで床にそのまま座る開放感、自然素材に囲まれた静けさは、やはり和室にしか存在しない無二の魅力です。
これから家を建てる方、あるいは和室のリフォームを検討されている方は、間取りの「何畳にするか」を悩む前に、ぜひ「その和室で、家族とどんな時間を過ごしたいのか」をじっくりと考えてみてください。職人として、みなさまが後悔のない心地よい住まいを作られることを心より応援しております。
