
京都市にある黄綬褒章受章、現代の名工に選ばれている店「沢辺畳店株式会社」にて長年修業を積み、東京都江戸川区で独立。 京都畳競技会にて最高賞の「京都府知事賞」を受賞。神社仏閣や茶室、屋形船から一般住宅まで、1ミリの隙間も許さない「京都仕込み」の技術で江戸川区を中心に活動中。
- 📺 メディア出演:TOKYO MX「バラいろダンディ」畳職人として出演
- 🏫 地域活動:練馬工業高校にて畳の文化・技術に関する講演会講師を担当
皆さまこんにちは。
東京都江戸川区の樋口畳商店、代表の樋口裕介です。
お客様から意外とよく聞かれる質問があります。
「畳職人さんって、一日に何枚くらい畳を作れるんですか?」
確かに、普段畳を作る現場を見る機会はほとんどありません。
テレビやYouTubeで畳職人を見ても、実際にどれくらいのスピードで仕事をしているのかまでは分からないと思います。
そこで今回は、京都で修業した一級畳製作技能士として、畳職人が一日に何枚作れるのか、実際の経験をもとにお話ししたいと思います。
結論|畳職人が一日に作れる枚数は条件によって大きく変わります
まず結論からお伝えします。
畳職人が一日に作れる枚数は、
- 新畳か表替えか
- 機械製作か手縫いか
- 普通の畳か特殊な畳か
によって大きく変わります。
例えば機械製作の場合、
新畳
18枚以上
表替え
12〜16枚程度
がひとつの目安になります。
ただし、これは工場で畳作りだけを行った場合の話です。
実際の畳屋の仕事はそれほど単純ではありません。
新畳と表替えでは作業量が全く違います
一般の方は意外に思われるかもしれませんが、新畳より表替えの方が時間がかかることがあります。
新畳はゼロから作るため、材料の状態が一定です。
一方、表替えはお客様が長年使われた畳を再利用します。
そのため、
- 畳床の凹み
- 隙間
- 傷み
- 歪み
などを確認しながら補修する必要があります。
畳の状態が悪ければ悪いほど時間はかかります。
そのため、表替えの枚数は現場によって大きく変わるのです。
手縫いの新畳は一日何枚作れるのか
京都で修業していた頃、私は手縫いで新畳を何枚作れるのか挑戦したことがあります。
朝7時30分に準備を開始。
8時に作業スタート。
1枚目は11時前に完成しました。
かなり順調なペースです。
昼休憩を挟み、2枚目も15時30分頃には完成しました。
ところが3枚目に入ると状況が変わります。
腰が重い。
身体が重い。
平刺しを締める頃にはかなり疲労していました。
結局18時で作業終了。
結果は2枚完成でした。
当時22歳でしたが、それでもかなりきつかったのを覚えています。
今33歳の私が同じ挑戦をしたら、もっと厳しいかもしれません。
手縫い表替えの最高記録は14枚
ちなみに私の最高記録は、
12時間で14枚の表替え
です。
今思い返してもかなり速いペースだったと思います。
しかし12枚を超えたあたりから異変が起こりました。
目がチカチカする。
後頭部が痛い。
集中力が落ちる。
修業時代には、
「耳がキーンとなる」
という職人さんもいました。
それくらい畳作りは集中力を使う仕事なのです。
畳床によって難易度は大きく変わります
ただし、この記録にも条件があります。
当時使用していたのは比較的縫いやすい畳床でした。
丹波裏床程度であれば問題ありません。
しかし、
- 赤裏床
- 棕櫚裏床
- 非常に硬い藁床
になると話は別です。
同じ一枚でも体力の消耗が全く違います。
職人であれば、この違いはよく分かると思います。
特殊な畳はさらに時間がかかります
畳には普通の畳以外にもさまざまな種類があります。
例えば、
- 茶室の炉畳
- 紋縁畳
- 柱の欠き込みがある畳
- 屋形船の三角畳
- 特殊寸法の畳
などです。
これらは寸法取りや加工が複雑になるため、通常の畳と同じペースでは作れません。
特に屋形船の畳や特殊形状の畳は、一枚ごとに考えながら作る必要があります。
有職畳は一週間以上かかることもあります
さらに特殊なものになると、有職畳という世界があります。
略式であれば比較的早く製作できます。
しかし本式の有職畳になると、一週間以上かかることも珍しくありません。
もはや「一日何枚」という考え方では測れない世界です。
畳屋の仕事は畳を作ることだけではありません
実はここが一番伝えたいことです。
畳屋は畳を作るだけが仕事ではありません。
- 畳の引き上げ
- 家具移動
- 掃除
- 納品
- 見積り
- 電話対応
- 現場調査
すべて仕事です。
さらに現場が遠ければ移動時間も必要です。
そのため実際の営業日で考えると、
機械製作の場合
新畳:約10枚
表替え:約8枚
これくらいが現実的な数字ではないかと思います。
修業先の社長は手縫いで18枚作ったそうです
最後に少し修業時代の話を。
私が京都で修業していた沢辺畳店の先代社長は、
「手縫いで表替え18枚作ったことがある」
と言っていました。
正直、初めて聞いた時は驚きました。
しかし私は信じています。
なぜなら本当に手が速かったからです。
現在の社長である息子さんも同じく非常に手が速い。
長年積み重ねてきた技術と経験の差を目の当たりにしました。
まとめ|畳職人が作れる枚数より大切なこと
畳職人が一日に作れる枚数は、
- 新畳か表替えか
- 機械か手縫いか
- 普通の畳か特殊な畳か
によって大きく変わります。
ただ、お客様にとって本当に大切なのは枚数ではありません。
一枚一枚の畳が、その部屋に合った寸法で丁寧に作られていることです。
畳は工業製品ではなく、今でも職人が現場ごとに調整しながら作る仕事です。
この記事を通して、畳作りの奥深さや職人の仕事を少しでも身近に感じていただけたら嬉しく思います。
