畳が臭い!
これは先日、畳を納品した家の子供に言われた言葉です。
国産の良い畳表だっただけに、言われたことは凄くショックでした。
親御さんは「畳が臭い?良い香りじゃない。畳屋さんごめんなさいね」と言ってくれた。
その言葉に救われたが、子供の言った言葉はセンセーショナルだっただけに、作業中もずっと心の中にひっかかっていました。
とはいえ、今まで中国産い草の畳を納品した時に「畳が臭い」と言われた経験はありました。
中国産のい草は、短時間の乾燥で済ませるため石炭乾燥を行う為、い草が酸っぱい匂いになると言われています。
▼い草の匂いについて詳しくはこちら:い草の匂いが臭い原因は?|畳の匂いを消す3つの方法
この酸っぱい匂いは、人によっては不快に感じることはよくある。
だから中国産に関しては「臭い」と言われる理由は理解できるし、畳職人としても注意を払うことができます。
しかし、今回は国産い草で「畳が臭い」と言われてしまいました。
そこで、なぜ畳が臭いと言われてしまうのか考えてみることにしました。
なぜ畳が臭いと言われてしまうのか理由を考えてみた
畳はイ草を編んで作られた自然素材です。
畳の歴史は古く、一説には1300年以上と言われています。また、イ草の上敷きに関して言えば2000年以上の歴史があると言われています。
この果てしない時間の中で「イ草の匂いが臭いと感じる」もしくは「イ草の匂いは苦手」という声はもしかしたらあったかもしれません。
ただ、長いと時間の中で生活スタイルに浸透していた(江戸時代まで一般庶民は畳でなく上敷きですが)ことを考えるとそれら意見は圧倒的少数だったのではないかと思います。
では、現在はどうなっているのか。
私が書いた記事である「い草の匂いが臭い原因は?|畳の匂いを消す3つの方法」は月間1700PVを記録しています。
PV数はユーザー数とは違いますが、多くの方がい草の匂いが気になって、この記事を見てくれたことは疑いようのない事実です。
これは日本の人口から考えてみれば圧倒的少数なのですが、日々増え続けていることを考えると拡大化する可能性があると言えます。
そこでもう一つ疑問が生まれてきました。
臭いと言われているのは畳だけなのか。ということです。
畳以外の自然の建築素材「木材」は「匂い」について何か言われていないかネットで調査しました。
ググったくらいでは全く反応が無かったのですが、楽天市場のレビューやAmazonのレビューには木の香りについて不満があるといった口コミが散見されました。
また、色々なネット記事を読むとどうやら魚の焼いた匂いを臭いと感じる子供が増えているのではないかという記事もありました。
この点については科学的根拠もなく、おそらく推測でしかないと思いますが、魚嫌いの子供が増えているのは間違いないので一部相関性はあるのかと私は思います。
では、なぜ畳、木、魚の焼いた匂いを不快に感じるのか。考えてみたいと思います。
私たち日本人は先述通り、イ草と木と共に暮らしてきました。食べ物は川や海で魚をとって食してきました。
まさに自然の匂いに囲まれた生活です。
もし、その環境と仮定するなら”自分の家の匂いが分かる”でしょうか。(現代でも自分の家の匂いがわからないのと同じで、慣れた環境は匂いが感じ難い)
本来、匂いとは複数の香りが混ざり合って一つの匂いに感じるものであり、自分の家の匂いも複数の香りが混ざり合って出来上がっているものです。(例えば両親の匂いや姉妹の匂いなど)
それは自然に囲まれた家とて同じことだと思います。
つまり、私たちがイ草、木、魚(の焼く匂い)に不快なものを感じるのは、私たちの生活から自然が遠退いたからではないかと思っています。
これからの匂い
私が子供の頃は、お風呂で身体を洗うのに使っていたのは石鹸でした。
現在のように身体はボディーソープ、頭はシャンプーなどとは分けられておらず、石鹸一つで身体の清掃は完結していました。
また洗剤も同様で、今のように漂白剤と柔軟剤を使うことは無く、洗剤一種類で全ての洋服を洗っていました。
無論それでも体臭や服の匂いに不満があったことは一度もありませんでした。
ところが現在石鹸だけ、洗剤だけの場合どこか不満があります。もう私の心は石鹸や洗剤だけでは満足できないものになってしまったのです。
油汚れを一瞬で取る綺麗さ、恐ろしいほど長時間まで香る匂いの持続性、ふんわり柔らかい仕上がりになる、ただ洗うだけで防臭防菌にもなる。
皆さまだって同じじゃないですか。
科学の力は私たち人間の匂いを変えたのだと思います。
もっと言えば、社会の匂いを変えたとも言えると思います。
車が出す匂いは劇的に変化しましたよね。
昔の車の排気ガスの匂いは息が出来ないほど臭いものでした。
ウチが所有していた車なんて当時で物凄く古い車だったので、少し吹かしただけでとんでもないガス臭い匂いを周囲に放っていました。
それが嘘のように現在の車は臭くありません。(DAIHATSUのタント。ちなみに音も超静か)
おそらく近い将来、電気自動車や水素自動車が主になると思います。
そしたら今よりもっと街から臭い匂いは無くなることだと思います。
素晴らしいことじゃないか!と思う反面、街の匂いがどう変化するのか、疑問も残ります。
私たちは不快な匂いと共に生きてきたわけで、それらを全て排除した先にある匂いとは、心地良い一色に染まった匂いになると仮定できます。
それは匂いによる排他的な思想を生み出す一助にもなりかねないのではないかと懸念が残ります。
色々な香りが混ざって一つの匂いになるのと同じで、沢山の匂いが混ざり合う社会になって欲しいと願っています。
最後に
もしかしたらそう遠くない未来に畳(イ草)文化は消滅するかもしれません。
おそらくは、匂いが引き金になると私は思います。
最悪なシナリオが現実化する前にやれることを精一杯やろうと思った今日でした。
読んでいただきありがとうございました。