どうやって畳は出来るの?畳が作られるまでを畳製作一級技能士が解説

 

皆さん、こんにちは!畳製作一級技能士の樋口です。今回は、どうやって畳は出来るの?畳が作られるまでを畳製作一級技能士が解説します。

 

 

どうやって畳は出来るの?

 

日本固有の伝統的な敷物。畳。

 

畳と言われてイメージが湧く人は多いかと思いますが、どうやって畳が出来るのか、知っている人は少ないかと思います。そこで今回はどうやって畳は出来るの?畳が作られるまでを畳製作一級技能士が解説したいと思います。

 

畳がどうやって出来るのか気になる方の参考になれば嬉しいです。

 

畳が作られるまでを畳製作一級技能士が解説

全体的なポイント
・畳とは日本古来から使われている伝統的な敷物であること
・畳は藺草を織り込んで作られた畳表を畳床に縫いつけたもの
・畳一枚が作られるのには沢山の時間と手間暇が掛っていること

 

そもそも畳とは?

畳とは、藺草を織り込んで作られた畳表を畳床に縫いつけた敷物のこと

 

皆さんも「畳」と聞いて、何と無くのイメージは湧くかと思います。

 

 

畳は今から千三百年くらい前、聖武天皇が使ったとされる御床畳(ゴショウノタタミ)が日本最古の畳と言われています。現在の畳とは少し材料が違っており、マゴモを4〜6枚ほど重ねて縫い合わせ、その上に藺草で編んだ畳表を縫い合わせたものでした。

 

▼畳の歴史はこちら:【歴史】畳が広まった理由は茶道?|日本史&畳年表でみる畳の歴史 

 

畳の縁なども錦の縁を付けるなど、畳は高貴な身分の方が使用される格式を表すものであったと言われています。また、現在のように畳は敷き込んで使われていたのではなく、寝具や一段高い座椅子?のような家具に近い使われ方をされていました。

 

畳が現在のように敷き込まれたのは室町時代、銀閣寺の書院造りが最初ではないかと言われています。ただ、鎌倉時代から座敷のような空間もあったようで、もしかしたら畳を敷き込んで使っていた武家の方もいたかもしれません。

 

無論、鎌倉時代にしても室町時代にしても畳は一般的な敷物ではありませんでした。どちらかと言えば高貴な方、武家の方などの限られた身分の方達が使用される敷物で、一般の人にとっては遠い存在でした。

 

それが安土桃山時代に大きく変わります。

 

茶人千利休が侘び茶を大成させ茶室なる空間を作ります。彼の目指した狭小で洗練された空間は、自然物との融合によって完成し、不完全なまでの美しい小宇宙的空間を生み出したのです。

 

その敷物として畳は選ばれ、一般家庭の方達にも畳が広く親しまれていきます。

 

そして、江戸時代という泰平の世が終わりを迎え、明治に入ると明治政府による富国強兵が始まります。周辺国を力で隷属していた欧米列強国に対抗するべく、日本も列強国から学び様々な変革を遂げていくのです。

 

無論、家作りも例外ではありません。政府は次々と洋館の建物を建設。赤坂迎賓館など、かのベルサイユ宮殿に引けを取らない素晴らしい建物を作ります。

 

ただ、その過程の中で、次第に畳という敷物は存在価値を問われてきます。太平洋戦争が終結し、高度経済成長期を迎えると畳にも陰りが見えてきます。

 

マンションやアパートなどの集合住宅が増え、畳の上での暮らしよりワンフロアの生活を好むような暮らし方が増えます。そして平成時代が終わりを迎える頃には、畳はレア物扱いにまでなってしまったのです。

 

ここでわかる通り、畳は家具的な役割を果たしつつ、敷き込む敷物へと変化を遂げ、暮らし方の変化と共に減少していった敷物です。少し暗い悲しいお話になってしまいましたが、畳職人は前を向いて頑張っている人が非常に多い業界です。勿論、それなりの困難はあるでしょうが、諦めないで良い畳を作られるようこれからも頑張っていくので応援して貰えれば嬉しいです。

 

話が大分長くなってしまいましたが、それではどうやって畳ができるのか紹介していきます。

 

どうやって畳は出来るの?

 

まず、畳の材料である藺草がどうやって出来るのか。解説したいと思います。

 

 

藺草の解説をする時、必ず誤解している方がいるのですが、畳職人は藺草は作りません藺草を作るのは藺草農家さんです。藺草農家さんは時間を掛けて育て上質で艶のある素晴らしい藺草を育てています。なので、藺草が美しいと思ったら藺草農家さんに言ってあげて下さい。

 

※国産を注文すると畳表に挟まれているバーコード付きの証明書です。ここから作った農家さんがわかります。ただ稀に付いていない場合もあります。

 

国産の藺草は主に熊本県、広島県、石川県、福岡県、佐賀県、大分県、岡山県などの地域で栽培されています。昔は備後表が一番だ!なんて言われていた時代もありましたが、現在では殆どが熊本県産の畳表になっています。

 

▼藺草についてはこちら:有名ない草の生産地はどこ?|国産い草の機能と現状について解説 

 

 

畳表をイ草で織ってます。

 

YouTubeで探したら動画があったので、紹介しておきます。

 

6〜7月頃収穫した藺草は染土と呼ばれる天然の日焼け止めを付着させ乾燥させます。しっかりと乾燥した藺草は動画のように機械によって織り込まれていきます。

 

ここまでが藺草農家さんのお仕事で、この織られた畳表が私たち畳職人の元に送られてきます。

 

 

ただ、中継ぎ表などは手織りの場合もあります。

 

※中継ぎ表(ただ、この中継ぎ表は動力織りだったような・・・。忘れてしまいました)

 

余談ですが、中継ぎの畳表はこの状態では畳表として使えませんので、継ぎ目部分のイガラを取ります。

 

 

本当は立ててイガラを毟るのですが、写真撮影の為に机の上で作業しました。ちなみに爪が長いのはからくりしやすいようにする為で、いつもこんなに爪を長くしているわけではありません。ほんとうです。

 

 

毟ったイガラは畳の修復や畳表面の厚さ調整に使います。

 

 

そしたら、いよいよ畳を作る解説に入ります。

 

畳は大きく分けて畳表、畳床、畳縁の三種類の材料で作られています。

 

 

▼国産と中国産の違いについてはこちら:国産畳と中国産畳の何が違うの?|国産表と中国産表の見分け方

 

 

▼畳縁についてはこちら:畳縁の模様デザインには意味がある?幸運を呼び寄せる畳ヘリの柄

 

 

勿論、使う材料によってグレードはあります。例えば、中国産畳表や色取り取りの畳縁、木製のチップを圧縮した畳床など様々なものがあります。また、畳の縁が付いていない縁なし畳や三角形の畳など種類も豊富にあるので、今回解説する畳が出来るまではあくまで一つのパターンに過ぎない事をご忠告しておきます。

 

▼琉球畳についてはこちら:琉球畳と縁無し畳の違いは?|意外に知られていない畳の種類

 

 

【畳職人/Tatami 】職人技!畳製作一級技能士の畳を作る動画

 

畳作りは床落としと呼ばれる作業から始まります。床落としとはお部屋の寸法に合わせて畳床を切っていく作業でとても大事な作業です。畳の寸法学についてはこの記事で説明すると本当に長くなってしまうのでやめておきますが、畳は一枚一枚寸法が違うので別の畳を別の場所に持ってきても入らないという事だけは覚えておいてください。

 

その後で板入れなどの作業に移ります。

 

 

板入れとは畳の角が潰れないようにまっすぐ通した木の板を寸法に合わせて切って角度を付けた板を縫い合わせるという作業です。とはいえ、板入れは全ての畳に行う作業ではありません。普段は框紙やプラスチックのコーナーを入れて畳の角を補強します。板入れをするのは高級な畳だけです。

 

角を整えた後、寸法を確認し、いよいよ畳を張り付ける工程に移ります。

 

 

まず、畳で最も大事な畳の目を落とします。畳の目はお茶室など重要な役割を果たすので、畳の目が狂ってしまうと先生にご迷惑をおかけしてしまうことになります。

 

次に畳表をからくりする作業に入ります。

 

【京都の職人技】畳職人の早技/Tatami craftsman quick work

 

からくりとは畳表の縦糸を麻糸(綿糸でからくる店も京都にはある)で括り止める作業のこと。からくりは京都特有の技術で、裏返しができなくなってしまわないように湿気が多い京都だからこそ生まれたものです。

 

▼からくりについてはこちら:【職人技で畳を作る】畳職人の早技YouTube動画

 

からくりが終わったら畳表を張り付けていきます。

 

※畳の端に出ている青白い布は防虫紙です。畳表を落とす際に一緒に落とすので気にしないで下さい。

 

畳表を止めているのは畳用の待ち針です。すごく大きいですが、鋭く尖っている為指を刺すと簡単に貫通します。

 

よく張れて藺筋が通ったら、上前を切り落とします。

 

 

切り落としたら、皆さんがよくご存知の平刺しという作業に移ります。

 

 

畳と言えばよく肘で「こうこうこ〜やって」やりますよね

 

平刺しにもそれぞれやり方があって関東と関西には大きな違いがあります。ここで説明しても良いのですが、畳が作られるまでの主題とは大きく外れてしまうので、今回は飛ばします。

 

ここで大事なことは平刺しは締め過ぎてもよくないし、締めなくてもよくないということです。特に弱っている畳なら尚更のこと。その点、お客様にも理解しておいて頂けたら幸いです。

 

次に幅落としをし、畳縁を畳んで返し縫いという作業に移ります。

 

 

返し縫いは新畳と表替えで縫い方が違います。藁を入れる場合はYouTube動画のような縫い方。表替えの場合はこちらの画像のような縫い方です。

 

新畳の場合は縫った後、畳を裏返しにして糸を締め直しますが、表替えの場合はしません。(藁が動かないようにする為強く締める必要がある)

 

最後に框縫いをします。

 

【畳の手縫い職人技/Tatami handmade Craftsmanship】早技!框縫い(うわ綴じ)

 

こちらも返し縫いや平刺しと同様に、新畳と表替えで手法が違います。表替えの場合、上の動画のようにうわ綴じをし、新畳の場合、下の画像のように伏せ框をします。

 

 

新畳の場合、厚さ調整をする為に藁を入れるのでこのような手法になりました。後は、畳をきれいに整えて寸法を確認し、完成です。

 

以上、どうやって畳は出来るの?畳が作られるまでを畳製作一級技能士が解説でした。

 

最後に

 

いかがでしたか?畳が出来るまでわかりましたか?

 

どうやって畳ができるのか、知りたい方の参考になれば幸いです。

 

畳一枚作るのに藺草の栽培から数えたら何十日、いや何百日も掛かって畳一枚が出来上がります。世の中にあるものは基本そうかもしれませんが、すごく時間をかけて一生懸命に作られているのです。

 

国産の畳って高くない!?もっと安くしてよ!と言われると私もつい言いたくなります。畳一枚作るのに沢山の人が関わり大変な思いをして作っていると。特に建築の元請け会社には強く言いたいです。

 

もちろん、今後とも企業努力はします。お値段を下げられるように頑張ります。ただそれはお客様と藺草農家さんの為であって、貴方達に仲介手数料を多く抜いてもらう為にしていることじゃない。

 

最後になりますが、今回の記事を通して物が一つできるまでどれだけの人が関わって、どれだけの人の想いが詰まっているか学んでもらえたら幸いです。

 

読んでいただきありがとうございました。

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