【京都に丁稚奉公】畳屋の弟子の1日とは?|畳職人の修業を解説

 

みなさん、こんにちは!畳製作一級技能士の樋口です。今回は、弟子の1日とは?畳職人の修業を解説ます。

 

畳屋の弟子の1日とは?

 

弟子ってどんなことするの?修業って大変だった?

 

友達からよく聞かれる質問です。個人的には楽しかった思い出しかないのですが、皆んな畳職人の修業に対して、結構ネガティヴなイメージを持っているようで、誤解している部分が多いなと感じています。

 

そこで今回は弟子の1日とは?畳職人の修業を解説したいと思います。

 

弟子の1日に興味がある方、畳職人の修業に興味がある方、これから修業してみたいと思っている方の参考になれば幸いです。

畳職人の修業を解説

 

修行とは・・・。

「修業」は「世間的な学問や技芸などを習い修めること」や「職業的な生業(なりわい)を習得すること」を指す語であり、「修行」とは明確な違いがある。

 

畳職人の修業とは技術を取得する為に畳屋に※弟子入り(※丁稚奉公)し、学ぶ一連のプロセスのことを言います。修業する弟子の多くは住み込みで働くのが一般的で、現在でもそれは続いています。(ちなみに私も住み込みでした)

 

弟子とは、師について個人的なつながりを持って仕えながら、学問や技芸などの教えを受ける人。門人。門弟。ていし。また、職人の徒弟。

 

丁稚奉公とは、職人・商家などに年季奉公をする少年。雑用や使い走りをした。「でし(弟子)」の音変化という

 

ただし、仏教の修行とは違い職人の修業には様々な方法がある為、一概に括ることはできません。つまり私の修業体験が多くの職人の修業に当てはまらないかもしれないし、下手すれば他の畳屋の修業にも当てはまらない可能性もあります。

 

したがってまず、どういった過程で弟子入り(丁稚奉公)したのかからお話しします。

 

畳屋への弟子入りまでの過程

そもそも畳職人になる為には三つの方法があります。

畳職人になる為の方法
・畳業を営む会社に就職する
・畳の学校に行く
・畳屋に弟子入りする(丁稚奉公)

 

この中で私が選んだのが、畳の学校に行く&畳屋に弟子入りする(丁稚奉公)でした。とはいえ、畳の学校と弟子入りは本来セットではありません。

 

京都の修業システムが学校と弟子入りをセットにしているだけで、他の畳の学校や弟子入りは別々になります。詳しくは以下の記事をご覧ください。

 

▼畳の学校はこちら:畳の学校って知ってる?|京都伏見区にある京都畳技術専門学院を紹介 

 

で、どうやって畳の学校と畳屋に弟子入りが出来たかというと、高三の夏休みに京都の畳組合事務所に電話して資料を送ってもらい、色々記入して翌年の四月(高校卒業と同時に)から畳屋に弟子入りというプロセスです。

 

畳の学校の入学式も四月の六日か七日か忘れましたが、ルビノ堀川で行い学校の新入生となりました。

 

では、畳職人の修業と畳の学校、どのように両立してやっていたのか弟子の1日を紹介します。

 

畳屋の弟子の1日とは?

 

1日のスケジュール

 

 

※画像に使用したアプリ:1日管理カレンダー 円スケジュールのカレンダー

 

右のグラフが畳の学校がある日のスケジュール。左が通常の日のスケジュールになります。

 

畳の学校は主に火曜日と木曜日の午後18時から授業が行われるので、それまでに仕事を終えて夕ご飯を食べて学校に向かうという1日のスケジュールになります。

 

1日のスケジュールを見てもらえばわかる通り、基本的には仕事中心の1日になっています。これは京都市と畳組合が決めたことで、私たちの修業は畳職人の仕事をしながら技術を教えてもらい、お給料も貰える従来の弟子制度とは少し違う形になっています。

 

画期的かはわかりませんが、皆んながWINWINなら良い制度かなと思います。

 

それでは、弟子の1日を細かく紹介していきます。

 

まず起床は朝6時過ぎくらい。6時50分に朝ご飯なので、それまでにタバコ吸ったり、歯を磨いたり、ちょっと髪の毛イジったり、眉毛切ったり、ヒゲ剃ったりと色々と準備します。

 

ご飯を食べ終わったら作業場に降りて先輩のコーヒーを入れたり、包丁を研いたり、縫い糸を作ったり、機械糸を巻いたり、機械に油を注したり、ゴミを倉庫に持っていったり、材料を運んだり、と色々と雑用をします。

 

この雑用は一番下っ端の弟子がやることで、弟弟子が入ってくると雑用をする量は極端に減りました。

 

ここまでが朝のルーティンです。この後は、基本的に毎日違う予定が組まれます。

 

例えば、畳の解体作業。畳表のからくり(かがり、端止め)、前立て、巻きたおし(返し)など色々です。

 

 

 ※こちらの作業は「からくり(かがり)」といって、最初に習う基本中の基本の作業です。やってる内容は簡単で、畳表がほつれてこない為に端を止める作業になります。ちなみに麻、麻綿W、麻Wのみの作業で、綿シングルや綿Wの畳表はからくりをすることはありません。手を抜いてるわけではなく、ボンドや接着剤でも接着するからです。

 

 

こちらは框を綴じてる画像になります。毎回伏せ框するわけでなく、上綴じの場合の方が多いです。(上綴じの良い画像が無かった)

 

 

こちらは表替え時の巻きたおし(返し)の作業です。簡単に説明すれば、畳の縁を床に縫い合わせています。

 

このような作業を1日中やる日もあれば、ずっと外回りして畳を引き上げたり、お客様のお宅に納品したり、畳の寸法を取りに行ったり、ゴミを捨てに行ったりする日もあります。

 

また上敷きの発注が入れば上敷きを作製したり、有職系の仕事が入れば有職畳を作ったりもします。

 

 

※こちらの画像は簡易的な有職畳になります。本式ではないので、そこまで難しいものではありません。

 

そんなこんなで午前中はあっという間に終わってしまいます。12時から45分間の昼休憩に入ります。昼休憩の時間はタバコを吸ったりお昼寝したりして過ごし、12時40分くらいには作業場に戻ります。

 

お昼寝は本当にオススメなので皆さんも是非お試しください。

 

▼パワーナップの記事はこちら:【パワーナップ】野比のび太は寝過ぎ?|睡眠不足はパワーナップで補おう 

 

午後も午前中と同じくその日の予定によって全く違うのですが、基本的には畳を作ったり、引き上げに行ったり、納品に行ったりして過ごします。

 

畳の学校が無い日は、このまま18時前まで作業をしますが、畳の学校がある日は午後16時40分頃に片付けを開始し、そそくさと撤収、ご飯を食べて学校に向かいます。

 

畳の学校は21時には終わるので、そこから帰ってお風呂入って寝る。とこんな感じが畳職人の弟子の1日になります。

 

これだけを聞くと「畳職人の修業って遊べないじゃん!」と思われるかもしれませんが、実際はそんなことはありません。修業と言っても休日はしっかりとあったし、夜中の外出も認められていました。朝帰りもバンバンしてたけど怒られた経験もありません。

 

実家に住んでいた高校生の頃より自由だったと思います。

 

ただ、11月11日に京都畳競技会という畳の技術を競うイベントが開催されるのですが、それに備えて自主練という時間が入ってくると遊ぶ時間はかなり少なくなります。

 

さらに仕事が忙しいとほとんど遊ぶ時間はありませんが、二、三ヶ月の辛抱なので我慢できるレベルです。終われば遊び放題ですし、我慢している時間も悪くないです。

 

こんなのが畳職人の弟子の1日ですが、思っていたより・・・大丈夫そうじゃないですか?

 

修業=過酷、修業=牢獄、修業=奴隷みたいなイメージって、きっと皆んなの幻想だと私は思います。もちろん現場によってキツい仕事もあるし、うるさい兄弟子もいるかもしれないけど、決して修業というシステムが悪いわけではないのです。

 

だからと言って修業を推奨するつもりはありませんが、修業についてちょっとでも知ってもらえた嬉しいです。

 

最後にじゃあ修業って何なのだろうか。ということを紹介して終わります。

 

畳職人の修業とは守破離である

皆さんは守破離という言葉をご存知ですか?

守破離(しゅはり)とは、日本の茶道や武道などの芸道・芸術における師弟関係のあり方の一つであり、それらの修業における過程を示したもの。 日本において芸事の文化が発展、進化してきた創造的な過程のベースとなっている思想で、そのプロセスを「守」「破」「離」の3段階で表している。

 

守破離とは、修業プロセスを「守る」「破る」「離れる」の三段階で表している言葉で、茶道の世界などでよく使われている言葉になります。(wekiを見る限り、武道や芸術の世界でも使われているみたいですね)

守破離とは?
「守」とは、師匠の言いつけ通り守って仕事をすること
「破」とは、師匠の言いつけを破って仕事をすること
「離」とは、師匠の元を離れ独自の手法で仕事をすること

 

この守破離という言葉の意味を初めて知った時、畳職人の修行も守破離そのものだと思いました。

 

 

畳職人の修行の「守る」とは、兄弟子や親方の言うことをよく聞くこと。見て覚えた通りに作業すること。

弟子入りしたばかりの頃は右も左も分からない未熟な職人でした。何をやるのも親方や兄弟子のアドバイスを聞いてからしか作業できません。

 

でも、それって悪いことではないような気が今はします。と言うのも、まず素直に話を聞くこと、素直な気持ちで作業を見ることは、基本を知る上で大切なことだったからです。

 

もちろん主体的な行動は大切だし、色々な技術者の技能を見ることも大切なことですが、まず素直な気持ちで受け止める心がなければ、どんな行動をしようが経験をしようが意味がないと私は常々感じています。

 

修業においての「守る」はそういった意味においても基本的なことであり、大切なことだと思います。

 

「破る」とは兄弟子や親方の教えに反して自分の考えた方法を試してみること。

親方や兄弟子のやり方がよく分かったら次は、自分で考えて作業してみることが大切なのだと思います。おそらく失敗するでしょうし、工務店から激怒されるかもしれません。

 

私も修業時代に、自分で考えた方法を試して大きな失敗をした経験があります。工務店さんに激怒され悔しい思いをしました。ただ、親方だけは私の味方をしてくれて、次頑張ったらええと言ってくれました。

 

この経験があったから私は今、どんな畳の仕事が来ても何も恐れずに作業することができます。「破る」ことにリスクはありますが、それを恐れず経験にすることは重要なことだと思います。

 

「離れる」とは、試行錯誤して作った自分のスタイルをビジネスに落とし込むこと。

修業時代と今とで大きく異なるのはお金になる方法なのか。という点です。修業時代の方法は、物凄く丁寧な作業だったのですが、その分時間も掛かる手法でした。兄弟子や弟弟子、親方など人数がいたから取れた手法であって、私一人でやったら仕事にならないのです。

 

だから簡略化できる箇所はするし、前もって段取りできることはしておく。というビジネスに合わせた自分のスタイルに落とし込む必要がありました。

 

「離れる」とは、自分の環境にあった手法を生み出すことで、自分でビジネスをする上で大切なことだと思います。

 

もしかしたら畳職人の修業以外の修業も守破離なのかもしれません。参考になれば守破離をイメージして頑張ってください。

 

▼守破離について:【必ず上達する】職人になる前に知っておくべき守破離の考え方 

 

以上、畳屋の弟子の1日とは?畳職人の修業を解説でした。

最後に

いかがだったでしょう。

 

畳職人の修業とは?畳屋の弟子の1日とは?何かわかりましたか?修業について少しでも理解が深まれば幸いです。

 

最後になりますが、修業は労働基準法を無視している。という意見について少し話をしようと思います。

 

確かに職人はフリーランス的な扱いだからか、労働時間とか結構オーバーしてるし、休みが少ないのも間違いありません。労働基準法的にはもしかしたら引っかかる部分もあるのかもしれない。

 

ただ、労働基準法って職人を目安に作った基準法じゃないからちょっと違反するのもしょうがないのかなと思います。現場までの距離が遠ければそれだけでも時間は掛かるし、雨が降ったら仕事が休みになってしまうこともあります。

 

その時の状況によって残業するのは致し方ないと職人側も理解しています。

 

もし嫌ならやめればいいだけの話で、職人の労働に関して基準法を持ち出して語るのはアンフェアだと私は思います。とはいえ、労働環境が少しでも良くなるように努力することは必要なことだと思っているし、大変な思いをしている職人がいたら助っ人呼ぶ人脈つくりは必要だと思っています。

 

だから皆さまにもご理解頂ければ幸いです。

 

読んでいただきありがとうございました。

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