みなさん、こんにちは!樋口畳商店代表の樋口です。今回は国産い草が危機?畳が無くなる?と叫ばれる畳業界をどうやったら改善させることができるのか、私の考えと実際に取り組んでいることを書いていきたいと思います。畳が好きな人、日本の伝統文化に興味がある人に読んでもらえたら嬉しいです。
国産い草が危機?畳が無くなる?
日本の伝統的床材である畳。その歴史は古く1300年以上前から使われていたのではないかと言われています。そんな日本の文化的象徴のような畳ですが、近年国産い草の生産数が激減しています。
農林水産省のデータによれば、平成17年畳表の生産枚数782万枚あったのが令和5年には154万枚。い草農家数は1170戸あったのが296戸にまで減少しています。
このままでは国産い草が危機的な状況になる!畳が無くなるのではないか!と不安になっている農家さんや材料屋、畳屋は数多くいます。
そういった情報は畳屋を営んでいる私のもとにも沢山送られてきているのですが、関係者大勢が言うことは一緒で「国産い草の畳のメリットを消費者に丁寧に説明して国産の畳を購入してもらおう」こればかりです。
私は国産い草をお客様に勧めるだけで問題が解決するとは到底思えません。
国産い草をお客様に勧めても畳替えの総量は増えない
かつて日本は人口増、住宅数増、和室数増でした。つまり畳が日本中にめちゃめちゃ増えていたわけです。右肩上がりの業界では国産い草を勧めれば勧めるほど国産い草の総量は増え、農家さんの所得も増えます。
しかし、現在の日本は人口減、住宅数微減、和室数減です。畳が減少している中、国産い草とくに国産い草麻綿は品質が高く耐久性が高いので交換頻度は間違いなく下がります。
つまり国産麻綿を勧めれば勧めるほど畳替えの総量は間違いなく減少します。畳替えの総量が下がるということは必然的に国産い草の生産数は下がり、農家数も下がります。
だから国産い草をお客様に勧めたからと言って問題の根本を解決することはできないと私は思います。
ちなみに安い国産い草(綿シングル)を勧めたらどうなんだと思った方もいるかもしれませんが、安い国産ってほとんど需要ない。お客様は綿ダブルか麻綿を選びます。
なので、安い国産い草であっても、高い国産い草であってもお客様に勧めることが畳業界が抱えている問題を解決する手段にはならないと私は思います。
では、どうやったら国産い草を、農家を、畳文化を守ることができるのか。それは新しい技術を習得し、新しい市場を作り出すことです。
畳職人にできることは新しい技術で新しい市場を作ること
危機的な状況にこそ技術的革新は生まれる。
現在、畳業界では大きな革新的な商品が生まれています。それが15ミリの薄い畳です。
今まで和室がなければ畳は存在できませんでした。しかし、歴史を紐解くとそもそも畳は和室がなくても存在したわけです。
畳は長いこと和室に縛られていましたが、15ミリの畳が生まれたことで和室からの脱却、つまり自由な畳製作が可能になり、日本中いや世界中の様々な部屋に敷くことができる可能性の塊みたいな床材になったのです。
樋口畳商店では、伝統的な技術を用いて折りたためる畳マットレスを開発しました。
置き畳使用による畳のズレがなく、掃除がしやすい。さらに折りたたむことができるので配送コストも安くすることが可能になりました。
▼オンラインショップはこちら:https://wakokusikimo.base.shop/
また、この技術を用いてデザイン置き畳を開発。
面倒な工事の必要がなく、デザイン的な置き畳を製作することが可能です。
もちろんズレて隙間ができることはありません。
こちらの商品はオンラインショップと直接お問い合わせで販売していて、折りたたみ畳マットレスはあと少しで100枚突破します。最近ではオーストラリア、アメリカから問い合わせもあり、これまで以上に海外販売にも力を入れていきます。
未来の技術より過去の技術
ただ、私が周りの畳屋さんを見て残念に思うのが、新しい技術ではなく古い過去の技術継承に力を入れすぎている点です。
古い過去の技術継承も必要です。有職畳は歴史的にも文化的価値の高いものですから。それに過去の技術から未来に活きる技術もあるでしょう。
しかし、過去ばかりを見て未来をちゃんと見ているのでしょうか。
国産い草をどうにかしないといけない!畳を守らないと!と声高々に言う人ほど、口で言っているだけで新しい技術開発に全く取り組まない。
本当に畳をどうにかしたいのなら、農家さんを守りたいのなら過去より未来を見て新しいことにチャレンジしないといけない。
もちろん私もこれまで以上に頑張ります。でも私一人がやったって数件の農家さんを救う程度にしかならない。全ての畳屋が新しい技術を開発するのに練習し、努力しないと何も変わらないのです。
多くの畳職人が新しい技術を開発し、新しい市場を作ることに注力してくれることを祈っています。
最後に
国産い草をなぜお客様に勧めるのか。それは国産い草が本当に良いものだからです。商売をやっていてお客様に悪いものを勧める人はいません。寿司屋が最高のネタを勧めるように、私たち畳屋も最高のい草を勧めます。国産い草の畳は私たちにとって理想的な最高の商品です。
では、なぜ国産い草の需要が減少しているのか。
それは畳屋も商売だからです。
お客様の中にはカラー和紙や樹脂で縁無し畳にしたい!という方もいますし、少しでも安い畳が欲しい!と中国産い草を選ぶ方もいます。
お客様の願いを叶えることこそ商売の本質ですから、国産い草を押し売りすることはできません。国産い草の需要減少の背景には畳商品の選択肢が増えたことが間違いなくあるでしょう。
それは国産い草の農家さんにとって辛い話ではありますが、お客様にとっては喜ばしいことでもあります。私たち畳屋は伝統文化を守るべき立場でありながら、建築リフォーム床材としての畳を販売する立場でもあります。
矛盾した立場で矛盾した想いを抱えながらこれからも商いをしていかないといけない。それは畳職人にとって不幸なことだと感じます。
読んでいただきありがとうございました。