畳職人とは?
日本の和室に欠かせない存在である畳。そんな日本の文化的敷物である畳を作る仕事こそ畳職人ですが、畳職人になるにはどうしたらいいの?畳職人って一体どんな仕事?と世間一般的にはあまりよく知られていないと感じます。
そこで今回は畳職人とはどんな仕事なのか、畳職人になるにはどうすればいいのか、一級畳技能士になるまでの過程を紹介します。
畳職人に興味がある方々の参考になれば嬉しいです。
ちなみに今回の記事の内容は、YouTubeでも語っています。
(2022年現在、諸事情により閲覧できなくしてあります。申し訳ありませんが、ブログを読んでください。)
文章より動画の方がわかりやすいという方はYouTube動画をお勧めします。ただ、私の喋りが下手くそなので、ブログ記事の方が伝わりやすいかとは思います。
宜しければどちらもご覧ください笑
畳職人ってどんな仕事?
畳職人とは、どんな仕事なのか。端的に言ってしまえば、畳を作ることが畳職人の仕事です。
畳職人は畳を作る仕事。
一言で説明できるので、簡単な仕事のように思われるますが、畳を作ることは以外にも奥が深いものでして、寸法を測るのに計算も必要ですし、30キロを超える畳もあるので力が必要ですし、長持ちする為、綺麗に納品する為の技術も必要ですし、お茶室や有職の知識も必要な仕事になります。
その理由は簡単で、畳は日本の歴史と共に歩んできた敷物だからです。畳の歴史は約1300年近くあると言われ、かつては位の高い皇族や貴族の方が格式を表す為に使用された敷物(家具的な役割に近い)として使われていました。
▼畳の歴史はこちら:【歴史】畳が広まった理由は茶道?|日本史&畳年表でみる畳の歴史
つまり、畳を学ぶことは日本を学ぶことだし、日本を学ぶことは畳を学ぶことでもあります。そうした歴史的背景から畳に使われる縁などの種類は数多くなり、仏教伝来と同時にさらに増えることになります。
畳職人の仕事①有職畳
それら畳の多くは有職畳と呼ばれ、現在では高貴な社寺などに納品されています。
有職畳とは、一般的に御神座(ごしんざ)のことを指しており、御神座とは茵(しとね)、龍鬢(りゅうびん)、八重畳(やえだたみ)、厚畳(あつじょう)などを組み合わせた室礼のことで、神様が鎮座する所だと言われています。
※この動画の磯垣先生は京都でお世話になった先生で、有職畳に関する私の知識は磯垣先生と沢辺畳店のみで構成されています。ぜひご覧ください。2021年動画削除されていました。
ただ、有職畳には九条紋といった特別な紋縁が使われている畳や、畳を二枚重ねて作った二畳台、四天付きの拝敷き、六角鐘敷き、礼盤(登高座(とこざ)に用いられる畳)、廻畳(紋縁の置き畳)もあり、有職畳と呼ばれる範囲は広いと考えてもらった方がいいです。
一般的にはほとんど知られていない畳職人の仕事内容ですが、こういった伝統工芸的な仕事も畳職人は請け負っています。
畳職人の仕事②お茶室
また有職畳だけでなく、お茶室に使われる炉畳を作るのも畳職人の仕事の一つです。私個人的にはお茶室の仕事は本当に難しい仕事ですし、一番神経使って集中して行う仕事になります。
あまり比べるものではありませんが、個人的には有職畳よりもお茶室の炉畳の方が難しいと思います。
その理由が畳の目です。画像を見てもらえばわかる通り、お部屋の寸法に合わせて両方目乗りにするという難易度が一番高いものになります。
寸法を取って、割付から計算の連続ですし、施工自体も1ミリずれたらお終いの綱渡り状態です。その分料金は高いですが、かなり疲弊する仕事だと思って間違いないです。
ざっと簡単に知られざる畳職人の仕事を紹介しましたが、次は改めて一般的に皆さんがイメージしている畳の仕事内容を紹介したいと思います。
畳職人の仕事内容を紹介
なので作り置きはできませんし、畳の状態によってはかなり修復しなければならないこともあります。表替えにしても、新畳にしても簡単パパッと出来ます!というわけではないのです。
・技術力
・い草を見極める(目利き)
・人の家にお邪魔する仕事
特に、畳で一番重要視されているのは寸法です。
畳のサイズが3ミリでも大きいと畳表が膨れ上がってしまうし、3ミリでも小さいと隙間が空いてしまいます。
その為、和室の寸法を測る際は、正確に測る必要が求められるので、中学校卒業レベルの数学は必修となります。(お店によって畳の寸歩の測り方は違います。私どもは三平方の定理を利用し、計算して測っていきますが、十字法と呼ばれるレーザーを使っての計作方法もあります。一般的な和室であれば、そこまで難しいわけではないですが、たまに難易度の高い和室、例えば三角形の和室とかはちょっと測るのに苦労するかもしれません)
もし畳職人になりたい!と考えている方は最低限の数学くらいは学んでおく必要があるでしょう。
次に畳で重要視されるのは技術力です。
技術力と一般的に言うと、綺麗に仕上げることなどの見た目のことを言いますが、畳職人においての技術力は見た目というより、長くお客様に使ってもらう為の耐久性に関わることを指しています。
畳って敷き込んでしまえば、どのように施工したのかわからないですよね。変な話、ノリで接着したり、タッカーを打ち込んだりしても表面上に何も問題無ければバレないわけです。
でも、それって長期的に考えると耐久性に不具合が生じます。ノリは剥がれてきますし、タッカーは錆びて取れてしまいますので。
つまり、表面上を綺麗にすることは本当の意味での技術力ではないのです。
では、技術力とは何かというと目に見えない箇所に使われる技術のことで、長く使ってもらって初めてわかることだと思っています。
最近では、畳の製造を全て機械化している畳加工会社があると聞きます。畳を機械で作ることは否定はしませんが、畳職人の仕事としての矜持があるのなら機械任せにするのではなく、目に見えない箇所に技術力を使うべきだと私は考えています。
もし畳職人になりたい!と考えているなら是非覚えておいて頂きたいです。
次に畳職人の仕事で重要なのは、い草を見極める目利きの能力です。
これまで畳の技術的な部分の話をしてきましたが、畳職人の仕事は畳表の目利きも重要な仕事になります。
目利きとは仕入れと関係する話で、どのような畳表を使うのか、品質はどうか、色はどうか、畳表の厚さはどうかと様々なチェックをして畳表を購入します。
畳表の材料であるイグサは自然のものですから、その年の環境によっては出来具合も異なるので、去年良かったら今年も良いと思って購入すると失敗してしまうこともあります。
では、どうやって畳表を判断していくのか。これは単純に色々な畳表を見ること、触ること、農家さんや卸屋さんから話を聞くことが一番だと思います。
もし畳職人になりたいと考えているのであれば、畳の技術を学ぶだけでなく、農家さんを訪ねたり、材料屋さんに話を聞きに行くなどの良い畳表を仕入れるための目を養う必要があるかと思います。
▼い草についてはこちら:有名ない草の生産地はどこ?|国産い草の機能と現状について解説
最後に、畳職人の仕事とは人の家に入る仕事であり、それは誇るべきことであるとお伝えしておきます。
私たち人間にとって家とは、他人に邪魔されたくないプライベートな領域であり、言わば自分だけ(家族だけ)のお城なのです。
そのお城の中にお邪魔して仕事をすることは、ものすごく信頼されていることの証拠でもあります。畳職人になることはそういった信頼を背負って仕事をすることであり、お客様と密に接する緊張感あるものだということは理解して頂きたいです。
一方で、だからこそ本当の感謝の言葉を聞くことができるし、やりがいも感じられます。
「畳って需要ないじゃん」「職人なんて儲からないじゃん」とよく言われますが、私は畳職人という仕事に誇りを持っていますし、大好きな仕事です。
畳職人になることをお勧めはしませんが、良い仕事だと胸を張って言えることは伝えておきます。
続いて、畳職人になるためにはどうすればいいのか紹介していきたいと思います。
畳職人になるにはどうすればいいの?
畳職人になる為の方法は3つあります。
1つ目は、畳組合が管理する畳の学校に通うこと。
2つ目は、畳屋に直接弟子入りすること。
3つ目が、畳や内装を施工する大きな会社に入社して働きながら流れを覚えること。
以上のどれを選んでも畳職人になれますが、それぞれにメリットデメリットがあります。
畳の学校に通う
実は畳職人になるために職人の卵たちが通う学校があります。
京都府、福岡県、埼玉県、茨城県、東京都、石川県(石川県の学校は技術のある畳職人がより高い技術を習う学校)に6校存在し、技術習得のため日々邁進しています。
それぞれの学校によって特色があり、教え方も授業時間も違うので一概に言えないですが、畳を一枚作ることはどの学校を選んでもできるようになります。
関東だと茨城県の訓練校は畳の工芸品(先ほど紹介した有職など)を作る技術力に定評があり、埼玉県は畳を速く作る技術に定評があると聞きました。
ちなみに、私は京都府伏見区にある畳の学校、京都畳技術専門学院に通っていました。
京都の畳の学校の特徴は丁稚制度が導入されていること、毎年畳の技術を競う畳技術競技会があること、産地見学や畳材料&機械メーカーの見学に行ったり、旅行に行ったりできることなどがメリットです。
丁稚制度が導入されているので住み込みで安心ですし、他の学校と違って普通に畳の仕事をして給料貰えるので木屋町や祇園で夜遊びもできます。
やっぱり京都ブランドの知名度は高いので、若い畳職人の卵たちが全国から集まります。後々情報交換なども出来ますし、良い仲間としてずっと繋がっていけます。
私個人的には畳職人になるには一番おすすめなのが京都の畳の学校です。
興味がある方はこちらの記事もご覧ください。
▼京都にある畳の学校についてはこちら:畳の学校って知ってる?|京都伏見区にある京都畳技術専門学院を紹介
参考になるかわかりませんが、茨城の畳の学校HPも載せておきます。
▼茨城県の畳の学校:http://www.tatami.school-info.jp/
畳屋に直接弟子入りする
今でこそ少なくなりましたが、昔のほとんどの畳職人は弟子入りして畳の技術を習うのが一般的でした。昔は今みたいにネットがあったわけでもありませんから、技術を学ぶのであれば効率的な学び方だったと思います。
私も先ほど記述した通り、丁稚制度という弟子入りを六年間しました。
弟子入りとか丁稚とか言うと「ヤバそう」「キツそう」とか思うかもしれませんが、別に大変なことはなく、とても楽しい日々を過ごしていました。簡単にどういった生活をしていたのかだけ紹介しておきます。
朝の起床は六時半ぐらいで六時四十五分に朝御飯を食べ、七時半には工場に降りて先輩のコーヒーを作ったり、ゴミを倉庫に持って行ったり、縫い糸を作ったり、機械に油を注したりと仕事を始める準備をしていました。
仕事の内容はその日によって違うので一概に言えませんが、お昼十二時まで畳作ったり、畳の引き上げ&納品に回ったりしていました。
昼休憩を終えて午後からも畳作ったり、畳の引き上げや納品をして十八時まで仕事をしていた感じになります。その後は、女将さんのご飯を食べる日もあれば、友達と木屋町に行って飲み歩いたり、先輩とドライブに行ったりと夜通し遊び回る自由時間でした。
ちゃんと休み時間もあるし、休日もあるし、みなさん優しいし、皆が思っているより絶対楽しいと思います。とはいえ、今の時代、人の家に住む、他人の釜の飯を食べることをあまり好まない人も多いのかなとは思います。
▼徒弟制度についてはこちら:徒弟制度とは?京都で修行した畳職人が徒弟制度の誤解について解説
畳や内装を施工する会社に入社する
現在において、最も適した畳職人になる方法は畳や内装の施工会社に入社することかもしれません。と言うのも、畳の需要は減少傾向にありますし、内装業も一緒に学べるならメリットばかりだと考えられます。
もちろん、有職畳やお茶室の畳なんかを極めることはできないでしょうが、代わりに幅広く仕事を請け負うことができるので、個人的には全然ありだと思います。
ただ、畳業界や職人の業界というのは職人気質な方が多い業界ではあります。偏見を持って「もぐり」と呼ばれたり、嘘の情報を材料屋さんに流されたりと嫌な思いをすることもあるかもしれません。
職人の世界はまだ『どこで。誰に。何年。』修行したのかを大切にしている世界なので、そういった職人たちの輪にも入れてもらえない可能性もあります。
とはいえ、素人革命と呼ばれる時代ですから修行した人々だけが報われる世界でなくても個人的には良いと思っていますし、今後そういう人々が輪に入れる時代になると私は信じています。
それでは、畳製作一級技能士になるまでの過程を紹介します。
畳製作一級技能士になるまでの過程
畳製作一級技能士になるまでの過程は、まず畳製作二級技能士を取得すること。その畳製作二級技能士の受験資格は2年以上の実務経験の後、実技試験に合格すること。(二級の実技試験は黒縁の床の間風上敷きと素框新畳製作を時間内に仕上げること)そして畳製作二級技能士を取得した後に3年以上の実務経験をして、やっと畳製作一級技能士の受験資格が得られます。畳製作一級技能士の試験内容は、実技試験と学科試験の両方あり、実技試験は板入れ新畳製作と床の間の本式(龍鬢)を制限時間に完成させることです。
学科試験は、普段やっている仕事のことなので、そこまで難しい試験ではありませんでした。(計算問題が面倒だけど)
畳製作一級技能士になるまでの過程で最も最短ルートは、畳の学校に通って、二級合格の後に一級を取得するのが一番最短ルートだと思います。ただ、畳業界において必ずしも畳製作一級技能士が必要なわけではありません。畳製作一級技能士を持っている私が言うのも何ですが、今までに役に立ったことは一度もありませんし、何かに使ったこともありません。
こんなものに時間を費やすより、畳の知識や技術に時間を費やす方が良いと個人的には思っています。これはあくまで個人的な意見なので、ご自分でよく考えてもらうのが良いと思います。
では、最後に畳職人となった後の進路について紹介しておきたいと思います。
畳職人の進路について
畳職人になった後で進む道は大きく分けて2つあります。
畳職人の進路には大きく分けて二つあります。
一つ目は、どこかの畳屋もしくは畳を含めた内装会社に勤めることです。畳は需要が低下している業界ですが、人手不足の業界でもあります。
若い人で技術を持っていて、知識もある方だったら欲しいという畳会社は沢山あります。給料や待遇については、会社によって様々だろうとは思いますが、働き口に困ることは少ないかなと思います。
二つ目は、自分で開業する。つまり独立することです。ただ、開業って言うと工場を借りて、畳の機械を導入して仕事をすると普通は考えますよね。もちろん、それも開業の一つではあるのですが、樋口モデルと言いますか畳の開業の仕方にはもう一つあります。
それが職人の下請け、つまりフリーランス的な働き方です。
これは畳屋さんの知り合いが多いことが前提になりますが、知り合いが多ければフリーランスだけで食べていけるので、そこで上がった収益を使って道具を揃えたりと設備投資に回すことができます。
地域の知り合いや建築関係の知り合いが増えれば、自分で仕事を取ることも可能になるので、そうなったら工場を借りて畳屋を開業すれば良いのです。
ただ、私は工場を借りることはあまり考えていなくて、今あるスペースで畳の仕事を行いながら、畳を使った違うビジネスモデル(収益化)を目指しています。
それはどういったことかと言うと、畳屋のビジネスは畳の受注、生産、販売ですよね。今までこういった仕組みからでしか収益化してきませんでした。
とはいえ、インターネットが普及した今、収益化は様々な方法で行うことができます。例えば、このブログ。このブログはアフィリエイトと呼ばれる仕組みとアドセンス広告という仕組みを使って収益化しています。
これは私が畳の修行したことによる経験と知識を収益化しているわけですね。
また、畳の技術を動画にしてアップしています。これは収益化していませんが、こういった技術動画を収益化することも将来的には可能だと考えています。
総じて言いたいことは、インターネットが生まれてこれまでのビジネスモデルではない形の収益化が可能になった。だから既存の形に囚われず、新しいビジネスモデルを探して収益化しよう!ということをしています。
皆さんもこれから畳職人になりたい!と思っているのであれば、現状に囚われず主体的に活動していって欲しいと思います。
以上、畳職人になるにはどうすればいいの?畳製作一級技能士になるまでの過程でした。
最後に
いかがだったでしょう。
畳職人になるためにはどうしたらいいのかわかりましたか。少しでも参考になれば嬉しいです。
一つの道を極める事こそ職人なり。なんて言われる時代は過渡期を迎えているのかもしれません。私もできる事ならそういう生き方が良かったし、好きな生き方です。
ただ、生きるためには食っていかないといけない。欲しいものもあるし、ちょっと贅沢もしたい。
そうしたら変化する他ありません。好きなことをやるためにはお金が必要です。自由に仕事がしたいならまずしっかりと稼がないといけない。
私が独立して一番身に染みて感じたことです。これから畳職人になる!という方々の心に響けば幸いです。
読んでいただきありがとうございました。良かったらシェアお願いします。
▼私の自己紹介記事はこちら:【自己紹介】 樋口裕介プロフィール