皆さん、こんにちは!樋口畳商店の樋口です。今回は畳競技会で優勝するために大切な4つのことを紹介します。これから畳競技会に挑む方の参考になれば嬉しいです。
そもそも畳競技会って何?という方は私のプロフィール記事と畳の学校について取り上げた記事で紹介しています。リンク貼っておきますのでそちらをご覧ください。
畳競技会で優勝するために大切な4つのこと
・段取りが七割
・畳の構造を理解すること
・道具の使い方
・独自性(こだわり)を出すこと
段取りが七割
畳競技会では道具の置く位置を見るだけで、この人が上手な職人か下手な職人かすぐわかる。なぜなら段取りこそが畳を作る上で最も大切なことだからです。
私が仕事を始めた時、一枚の畳を張り替えるのになぜ先輩達と差が開くのか疑問に思っていました。ある日観察してみると先輩達の動きは完璧にシステム化されていることに気がついた。待ち針の置く位置、ヘリ引きの置く位置、包丁の置く位置。全て決められた場所に配置されて、次やる動きにシンクロするようになっていたのです。
何枚も何枚も畳の張替えをした結果、道具の置く位置が決まり、無駄のない動きになっていったのだろうと思います。
それは畳競技会における新畳製作も同様です。何度も何度も練習し、シミュレーションすることで自分の動きを確認し、道具の置く位置を決めていく。段取りを完璧に近づけることで畳製作のスピードは格段に早くなるし、余った時間をこだわりの箇所や丁寧にやらなければならない箇所に使える。
縫うスピードがどうとか畳を切るスピードがどうとか言う前に、段取りを完璧に近づけることが畳競技会で優勝する一番の近道だと思います。
これは余談ですが、畳競技会最中に畳の上に置いてあった包丁に気づかず手を切ってしまった職人がいました。時間に追われて焦っていたのでしょう。その方は怪我をしてしまったせいで思うように作ることができず残念な結果となってしまいました。
前評判として先生達からとても評価の高い子だった。しかし、厳しい言い方をするとこれは論外です。包丁が畳の上に置いてあることも気づかないとういうことは、道具の位置を把握していないということ。職人一年目ならまだしも三年目四年目がやるミスじゃない。(料理人が包丁の位置を把握せず、包丁を握って指切ってしまったらクビになるレベル)
偉そうな言い方になってしまうのだけれど、何も見えていないし何もわかっていない。評価する先生達も含めて畳を作るうえで大切なこととは何だろうか。もっと考えないといけない。
畳の構造を理解すること
どうやったら早く綺麗に畳を作れるか。その答えは畳の構造を理解することにあります。例えば、畳藁床の構造として5〜6層の藁を圧縮して作られています。その層の中には藁が横向きに入っている層や縦向きに入っている層があります。もし糸をかけるなら縦向きに入っている層より横向きに入っている層に糸をかけた方が糸は締まりやすいですよね。
つまり畳の構造を理解しておくと無駄な力を使わずに畳を綺麗に作ることができるようになる。畳を早く綺麗に作るためには畳の構造を理解することが大切なことなのです。
ちなみに畳の解体作業ってありますよね。縫っている糸を切って外して、畳の表を剥がして、縁を剥がす。畳表を張り替えるのに必要な作業ですが、あれは畳の構造を理解するのに大事な作業でもあります。
例えば、藁床にも色々な作り方があります。それは45㎜〜60㎜ぐらいまで厚さの調整がありますし、二級、一級などの等級によっても変わります。構造的には似ていても全ての床が同じとは限らないというわけです。
畳の解体作業ではそれを観察することができます。はじめのうちは面倒な作業だと思わず、しっかりと観察してチェックするようにしましょう。
道具の使い方
クマよりも小さく、チーターよりも遅く、サメより泳げない弱い人間がなぜ生物の頂点になったのか。その理由は道具にあります。人間は生まれ持った能力は低くとも道具を使うことでその力を何倍にもすることができる。銃を手にすればクマも殺し、スポーツカーに乗ればチーターをも引き離す、ボートの上ではサメも手が出せない。我々人間は道具によって進化してきたのです。
畳職人もそれは同じこと。畳を作る上で道具がなければ畳を作ることはできません。道具を上手に使えなければ畳は綺麗に作れないのです。
畳包丁の形状はなぜあのような形になっているのか。畳針はなぜ途中から太くなっているのか。畳台はどうして先が出ているのか。手当の使い方とは?道具の形には全て意味があります。
ただ、これは文章で説明しても理解してもらえない。道具の使い方は自分の手で何度も何度も覚えさせるしかありません。
道具の使い方をちゃんと知っているか知らないかで差は半端なく出るのでぜひ頭に入れておいてください。
独自性(こだわり)を出すこと
畳競技会で優勝するために大切なことは独自性つまりこだわりを作ることです。こだわりのないものづくりは誰にも感動を与えられない。誰の心も動かしません。
ここだけは時間を使ってもいい。と思える作業を作り、独自性のある畳を作りましょう。
では、独自性を作るためにはどうしたらいいのか。それは守破離の手順を踏むことをお勧めします。守破離とは茶道における作法習得の手順であり、京都の職人業界で用いられる修業の手順でもあります。守とは親方の言いつけを守ること、破とは親方の言いつけを破ること、離とは自分のやり方を作ること。
独自性を作るためには、まず親方の言ったことをしっかりと守り畳を作ってください。ちゃんと言ったことを守り畳を作れるようになったら親方の言ったことを破ってみる。この破るというのは失敗が前提で問題ないです。なぜこのやり方がいいのか、こっちのやり方の方がいいのでは?そういった疑問に思ったことを失敗してもいいから実行してみてください。
それが守破離の離に繋がっていきます。
何度も試して失敗し、それを繰り返すことで独自性の畳を作ることができるようになるのです。ただ、独自性で忘れてはいけないのが、誰の為に畳を作るのかという意識です。職人は芸術家ではありません。人に使ってもらって初めて価値が生まれます。
お客様は高いお金を支払って畳を替える。それがすぐ壊れてしまうようなものであってはいけないのです。独自性はすごく大切なこと、でも誰の為に畳を作るのか。これだけは忘れてはいけません。
偉そうに書かせていただきましたが、畳競技会のレベルが上がって素晴らしい畳が、畳職人が生まれてくることを祈っています。
読んでいただきありがとうございました。